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[毎日新聞] 社説:在外被爆者 国の救済が遅すぎた (2015年09月10日)

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海外に住む被爆者に対して、国が被爆者援護法に基づく医療費の支給を認めないのは違法だ。最高裁がそう判断し、国側の敗訴が決まった。

援護法や前身の旧原爆医療法に、国籍や居住地などで援護内容に差をつけた条項はない。ところが現行の制度では、国内の病院で治療すれば医療費の全額を国が支給するのに、海外の医療機関であれば一定額までしか助成しない。

居住地で差をつけるのが妥当かどうかが争われた訴訟で下級審の判断は割れていた。初の最高裁判決は、在外被爆者が国外で医療を受けた場合でも援護法を適用し全額支給すべきだという判断を示した。

原爆放射線の影響で被爆者は生涯にわたって健康不安を抱える。判決は、こうした特別な健康被害を救済するのが援護法の目的で、援護対象を国内在住者に限っていないと指摘した。海外にいれば治療のために来日するのは難しく、現地の病院で治療しても医療費が支給されないのは法の趣旨に反するとも述べた。

妥当な結論であり、「被爆者はどこにいても被爆者」という原告らの思いに応えた判決である。国は救済のあり方を見直すというが、対応が遅すぎたと言わざるを得ない。

被爆者健康手帳を持つ海外在住者は韓国、米国、ブラジルなど33カ国・地域に約4300人いる。広島、長崎で被爆した後、帰国した外国人や海外移住した日本人らだ。

外国に移住しても適切な医療が必要なことに変わりはない。ところが国は、外国の医療保険制度は日本と異なり適正な給付ができないとして在外被爆者を援護法の対象から外し、その代わりに上限額を設けて医療費を助成してきた。

援護法はそもそも、被爆者救済の責任は戦争を起こした国にあるという国家補償の性格を持つ。なのに、行政の解釈で適用の対象を限定したことに問題があった。

国は長年にわたって在外被爆者の救済範囲を狭くとらえ、司法が是正を命じる度に政府や国会が対応に動く構図が繰り返されてきた。健康管理手当の支給を海外に移住すれば打ち切るという通達は、2002年に大阪高裁が違法と判断するまで30年近く続いた。健康管理手当の申請が在外公館で可能になったのも司法による指摘を受けてのことだ。

在外被爆者に差別的な扱いを続けてきた国の責任は重い。

在外被爆者の健康診断や健康相談が国内在住者と比べて十分でないという課題も残る。高齢化の進む被爆者にとって医療は切実な問題だ。被爆者の経済力や国籍の違いで差異をつけず援護するという法の趣旨を踏まえた支援策を確立すべきだ。

2015年09月10日 02時30分

[東京新聞] 桐生悠々を偲んで 真実を伝える覚悟 (2015年09月10日)

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安全保障関連法案の成立が強行されようとしている今年ほど緊張感を持ってきょうを迎えたことはありません。反骨の新聞記者、桐生悠々(ゆうゆう)の命日です。

一八七三(明治六)年に生まれた桐生悠々は、明治後期から昭和初期に健筆を振るった新聞記者です。本紙を発行する中日新聞社の前身の一つ、新愛知新聞などで編集と論説の総責任者である主筆を務めた、われわれの大先輩です。

本紙が一昨年から随時掲載し、識者らの声を紹介する欄のタイトル「言わねばならないこと」は悠々が晩年、自ら発行していた個人誌「他山の石」に書き残した言論人の心得でもあります。

その遺品が今年、遺族から出身地の金沢市にある「金沢ふるさと偉人館」に寄託されました。「他山の石」各号=写真=や「廃刊の辞」の直筆原稿、新聞記事のスクラップ、友人知人からの手紙などです。最終的には約五百点に上るといいます。当時の言論状況を探る上で貴重な資料です。

その中に、購読者の一人で「憲政の神様」「議会政治の父」と呼ばれ慕われる政治家、尾崎行雄から、悠々に宛てた手紙があります。

「何に故に禁止在るや、解(わか)らぬ連中にハ困り入り候私の『独裁政治排撃』の小冊子も禁止され候」

一九三七(昭和十二)年一月、他山の石が発行禁止処分となったことに憤り、自ら発行した小冊子も、同じ発禁処分を受けたと伝える内容でした。


◆国民生活軽視を批判
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他山の石の発禁理由は「国防の充実と国民の生活安定」という悠々の文章でした。「出先の軍隊が中央の命令に従わないで勝手に盲動(もうどう)」という部分が「出先軍部の行動歪曲(わいきょく)」とされたのです。

三一(昭和六)年の満州事変が関東軍の暴走だったことは、今では歴史的事実として堂々と記せますが、当時は難しいことでした。

この文章には「国防充実と国民生活の安定とは両立すべからざるもの」との記述もあります。時の政府が国民生活の安定を「重要なる一政策」と宣言しながら、予算の65%を国防の充実に充て、国民生活の安定には5%しか充てていない、との批判です。

また、軍備はいかなる場合も攻撃的であり、濫用(らんよう)される▽軍備の拡張で「権力平衡」が破壊されれば、仮想敵との間で「永久に軍備拡張の競争戦」を演じなければならず、財政や消費経済面から許されない−とも記しています。

悠々の指摘は、海外にまで視野を広げた豊富な知識と判断力に基づいて、本質を言い当てたものです。その慧眼(けいがん)を当局は恐れ、発禁処分にしたのでしょう。

偉人館で遺品の整理・研究を進める学芸員の増山仁さんは、悠々の文筆活動を「おかしいことはおかしいという、今のジャーナリズムにつながる」と評します。私たちも見習うべき真の記者魂です。

長野県の信濃毎日新聞の主筆だった悠々は三三(昭和八)年、自らの筆による評論「関東防空大演習を嗤(わら)う」が在郷軍人会の怒りに触れ同社を追われます。新愛知時代に住んでいた今の名古屋市守山区に戻り、糊口(ここう)をしのぐために発行を始めたのが他山の石でした。

購読者には、名古屋周辺の財界・知識人や金沢時代の友人を中心に、戦後首相を務めた芦田均、作家の徳田秋声、終戦時の内閣情報局総裁、下村宏、岩波書店の創業者、岩波茂雄らがいます。広告には当時、名古屋にあった銀行など企業の名前も並びます。

当局に目をつけられ、たびたび発禁となる厳しい社会的状況でしたが、悠々の論調に共感する多くの人々に支えられていました。悠々は決して「孤高のジャーナリスト」ではなかったのです。


◆軍備拡張競争に警鐘
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悠々は四一(昭和十六)年九月十日に亡くなる直前、他山の石の廃刊の辞として「戦後の一大軍縮を見ることなくして早くもこの世を去ることは如何(いか)にも残念至極」と書き記し、自ら発送しました。

悠々が見たいと切望した一大軍縮は戦後、日本国憲法九条に結実しますが、安倍内閣は憲法の解釈を変えて「集団的自衛権の行使」に道を開こうとしています。

悠々が指摘した「永久に軍備拡張の競争戦」が再び繰り返されることはないのか。政府の言い分を鵜呑(うの)みにせず、権力に抗して、自らの判断力で読者に訴える。その志と気概は、私たちが受け継がねばと、悠々を偲(しの)んで思うのです。

[産経新聞] 【主張】楢葉町の避難解除 柔軟で息の長い支援策を (2015年09月10日)

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地域再生に向けた着実な歩みにつなげたい。

東京電力福島第1原発事故に伴う、福島県楢葉町の避難指示がようやく解除された。

原発事故から4年半になる。約7400人の楢葉町民は、30都道府県でそれぞれ避難生活を送ってきた。

帰還できる日を待ちわびた人も、避難先での定住を決断した人もいる。解除に対する思いはさまざまでも、故郷が「帰れる場所」になった意義は大きい。

解除は、田村市の都路地区、川内村の東部に続いて3例目で、全域避難の自治体では楢葉町が初めてである。

すぐに町に帰ってきた人数は町も把握していないが、帰還にむけた「準備宿泊」の登録者は人口の1割強の780人にとどまり、その多くは高齢者だった。

病院はまだない。買い物も不便だ。学校も働く場所も、再建はこれからだ。

少子高齢化と過疎の極限状態からの復興は容易ではない。国と自治体、そして国民が心を一つにして、再生への長い道のりを支え続けていく必要がある。

政府は当初、お盆前の解除を提示したが、住民の反発で9月に延期された。除染作業が終わり、道路、電気、水道などのインフラは一応整ったものの、「そんなに簡単に帰れるか」という思いを町民の多くが抱いている。

復興を加速させるためには、大胆な施策を打ち出すべき局面もあるだろう。一方で、性急に結果を求めると施策が空回りし、かえって住民の心が離れてしまう恐れもある。

国と自治体には、住民の声を聞き、復興状況に合わせた柔軟で息の長い支援を求めたい。

放射線への不安と風評は、帰還や定住を妨げる大きな要因だ。福島の被災者だけの問題とせず、全ての国民が、風評の根絶に取り組むことが大事だ。

楢葉町を拠点とする福島の復興と再生は、少子高齢化が進む多くの地域が直面していく課題を、逆向きに一つ一つ解消していく道のりでもある。

「福島の復興なくして、日本の再生はない」。安倍晋三首相は、こう繰り返してきたが、かけ声倒れになりかけてはいないか。

福島が、日本の再生の道しるべとなることを、今一度、胸に刻まなければならない。

[産経新聞] 【主張】安倍総裁再選 「拉致」を忘れていないか (2015年09月10日)

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自民党総裁再選に際して、安倍晋三首相の発言に拉致問題についての言及がないのは、どうしたことか。

総裁選は行われず、拉致問題の党内議論もなかった。安全保障関連法案をめぐる国会審議でも、「拉致」は重要課題とはならなかった。恐れるのは、この問題が風化することである。

安倍政権で拉致被害者を救出するのだという決意を強く発信し続け、国民の怒りを結集して問題の解決に結びつけてほしい。

岸田文雄外相は1日、拉致被害者らの再調査報告について「全ての拉致被害者の帰国を目指すという意味で期限を設けない」と述べた。北朝鮮による時間稼ぎを容認することにつながる、看過できない発言だが、これが安倍政権の基本姿勢なのか。党内から批判の声も聞かれない。

北朝鮮は「1年程度」とした調査期限の今年7月、報告の先送りを一方的に通告し、その後も約束の履行を果たそうとしない。

被害者家族らは報告に期限を設け、一部解除した制裁の復活や、新たな制裁を科すことを求めてきた。北朝鮮との交渉における原則は、「対話と圧力」と「行動対行動」だ。家族らの要求は原則にかなう当然のものだが、外相は顧みようとしない。

こうした政府のあいまいな姿勢が国民の関心を遠ざけ、例えばこんな事態を生じさせる。

TBSはこの夏、放送したドラマで、贈収賄事件で逮捕される政治家役にブルーリボンバッジをつけさせた。バッジは拉致被害者の救出を祈るシンボルである。

TBS側は「他意はなく、政治家っぽい雰囲気を出せると思った」と説明したのだという。あまりの無神経、お粗末さにあきれるが、拉致被害者の救出運動が国民的盛り上がりをみせていれば、起き得なかった演出だろう。

安倍首相はこれまで、繰り返し「拉致問題を解決しないと北朝鮮は未来を描くことが困難だと認識させる」と述べてきた。だが、報告をただ待つばかりの交渉では、北朝鮮は動かない。

昨年5月、北朝鮮が拉致被害者らの再調査を約束したストックホルム合意に、被害者家族らはいちるの望みをかけた。それだけに現状への怒り、失望は大きい。報告に期限を切り、北朝鮮に制裁強化を突き付けるべきだ。

[朝日新聞] 欧州への難民―世界規模で対応を急げ (2015年09月11日)

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中東やアフリカから欧州に向かう難民や移民の流れが止まらない。その数は今年だけで30万人を超え、昨年の総数約22万人をすでに上回っている。

多くはシリアなどから戦火を逃れた人々だ。エーゲ海や地中海を渡り、陸路でドイツや北欧をめざす波となっている。

その保護と受け入れは、一刻を争う人道問題である。最前線の現場である欧州各国にまず一体的な取り組みを望みたいが、同時に世界規模で緊急対応する道を探るべきだ。

すでにカナダや豪州、南米諸国などが受け入れを表明している。欧州を率先するドイツを筆頭に、難民救済の決断は重く、評価に値する。米国や日本を含む他の主要国も、早急に世界の難民救援策を出すべきだ。

欧州への難民移民の流れは、中東の「アラブの春」を機に、2011年頃から急増した。北アフリカから地中海を渡る人が多かったが、今年に入ってトルコからギリシャ経由で旧東欧へ入るルートが中心になった。

その途中では痛ましい事故も続いている。8月には、オーストリアで冷凍トラックに乗っていた70人以上が死亡した。今月はトルコの海岸に流れ着いた3歳児の写真が衝撃を与えた。

欧州連合は今週、16万人を加盟国に割り当てる案を出した。受け入れ実績の豊かな欧州といえども、習慣や文化が異なる人々を迎える戸惑いは市民の間に根強い。移民排斥を訴える右翼などの反対運動もある。

それでも、ドイツに続き、英国、フランスなどが受け入れを拡大する方向で動いているのは歓迎すべき流れだ。

国連は今月下旬の定例総会の際、この問題をめぐる高位会合を開く。より迅速な対応のために、ドイツとフランスが主導して多国間で調整する国際枠組みを検討してもいいだろう。

難民問題は、今の世界で最も深刻な危機の一つである。内戦状態が4年以上続くシリアだけでなく、アフガニスタンやソマリアなど各地の混沌(こんとん)から逃れる人々は長年、後を絶たない。

難民の最大の流入先になっているトルコやパキスタン、レバノンなど、紛争の近隣地域での難民支援も急がれる。紛争自体の収拾をめざす国際努力もいっそう強めねばならない。

日本にとって、地球規模での対応が迫られる難民問題こそ、積極的平和主義と呼ぶにふさわしい分野ではないか。日本が昨年1年間に認定した難民は11人だった。国際責任を果たすうえでいま、何ができるか、真剣に考えるべきときだ。

[朝日新聞] 消費税の還付―案の利点生かす論議を (2015年09月11日)

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2017年春に予定する10%への消費増税をにらみ、自民、公明両党の協議会が「日本型軽減税率」の検討を始めた。与党が財務省にたたき台を作るよう求めた経緯があり、それを基に具体的な制度を考えていく。

お店での飲食料品の購入や外食の際、これから国民に配られるマイナンバーカードを代金支払い時にかざし、金額に応じたポイントをためる。そのポイントに基づいて支払った消費税の一部を還付し、税率引き上げに伴う負担増を和らげる。財務省案はそんな内容だ。

与党、とりわけ公明党が主張してきたのは、飲食料品などの消費税率を今の8%にとどめる形での軽減税率だ。しかし、それでは負担減の必要性が乏しい高所得者も恩恵を受け、その分社会保障に充てる財源が目減りしてしまう。どんな商品やサービスに軽減税率を適用するかの線引きも難しい。

財務省案では、還付の対象を酒類以外の飲食料品に限った。一人あたりの還付額に上限を設けながら、還付の対象者から所得の多い人をはずす選択肢にも触れており、軽減税率の問題点を意識した内容と言える。

が、これはあくまで論議の出発点だ。問われるのは、与党の見識と姿勢である。

今後、還付の対象分野を飲食料品以外に広げるのかどうか。還付の対象者や水準について、必要な人に必要な支援をする仕組みにできるのか。

この機に改めて社会保障と税の一体改革の目的と議論の過程を思い出してほしい。

社会保障費の増加などで財政難が深刻さを増すなか、消費税を増税し、国債発行という将来世代へのつけ回しを抑えつつ社会保障制度も支えていく。これが一体改革だ。ただ、消費税には低所得者ほど負担が重くなる逆進性があるため、その対策も講じる必要がある。

それが与党協議の出発点だった。低所得者対策と言いながらその目的を離れて過度に膨らみ、社会保障財源に響くようでは本末転倒である。

財務省案にも、課題はある。

買い物や飲食をするたびに、支払金額に関する情報を行政に送ることについては、個別の品目と価格など内訳に触れないとはいえ、プライバシーの観点から心配する消費者もいるだろう。小売店などに新たに端末を置いてシステムを築く手間とコスト、情報管理のあり方など、実務や運用上の懸念もある。

国民が納得できる制度に仕上げられるかどうか、与党の協議を注視したい。

[読売新聞] 消費税10%対策 国民への配慮を欠く財務省案 (2015年09月11日)

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◆自公両党は軽減税率の導入貫け

消費増税に伴う痛税感を和らげる効果に乏しい上に、国民に無用の負担を強いる。欠陥だらけの制度を、採用するわけにはいかない。

財務省が、消費税率を10%に引き上げる際の負担緩和策の原案を、与党税制協議会に示した。全品目に10%の税率を課したうえで、酒類を除く飲食料品については、税率2%相当額を後日、国民に給付する仕組みである。

これでは、購入時の支払額は減らず、消費の落ち込みを防ぐ役割は果たせまい。与党は財務省案を退け、食料品など生活必需品の税率を低く抑える本来の軽減税率を導入するべきだ。

◆みっともないバラマキ

財務省は負担緩和策を「日本型軽減税率」と称している。

これに対し、協議会のメンバーから、「軽減税率もどきではないか」などと、疑問の声が相次いだ。全品目に同じ税率を適用し、後からお金を配るのでは、給付金制度にほかならないからだ。

財務相経験者で、税制に詳しい伊吹文明・元衆院議長も自民党二階派の会合で、「財務省にしては、みっともない案だ。福祉給付金のようなバラマキになる」と、厳しく批判した。

自民、公明両党は2014年12月の衆院選共通公約で、消費税10%時に軽減税率を導入することを明記した。財務省案を採用し、軽減税率だと強弁すれば、国民を欺くことになる。

財務省案では、所得制限は設けず、高所得者も含めて広く薄く給付金を支給する。一方で、給付額には1人当たり年5000円程度の上限を設ける方向だ。

政府は14年4月に消費税率を8%に上げた際、低所得者に1万?1万5000円を支給する「簡素な給付措置」を実施したが、景気下支え効果はなかった。今回はさらにインパクトが弱い。

所得が低い人の負担感を緩和する効果も期待薄である。

◆低所得者への恩恵薄く

協議会では、飲食料品の消費税額を把握するためにマイナンバー(共通番号)カードを活用することについても、実現性を危ぶむ声が多数上がった。

買い物の時、店頭の読み取り機にカードをかざすと、新設の「還付ポイント蓄積センター」にデータが集約される。消費者は、税務署などに出向くか、インターネットなどで給付金を請求する。

消費税10%が予定される17年4月までに、全国に約80万もあると見られる小売りや外食の事業者すべてに、読み取り機を設置できるだろうか。マイナンバーカード自体の配布も間に合うまい。

1台数万円とされる設置費や、全国にシステムを張り巡らせるコストもかかる。センターの維持・管理費や給付金の振込手数料、担当職員の人件費なども新たな財政負担となる。

協議会では、新国立競技場の建設費増大の原因となった工法になぞらえて、「第2のキールアーチになってはいけない」と危惧する意見も自民党から出た。

このほか、「全国民が買い物のたびにマイナンバーカードを持ち歩くことは、現実味があるのか」と、消費者が制度を利用するために強いられる煩雑さの指摘もあった。

カードの紛失や盗難で、個人情報の流出や悪用による被害が出ることを懸念する向きは多い。

麻生財務相は記者会見で、「カードを持っていきたくなければ、持っていかないでいい。その代わり、その分だけの減税はない」と述べた。家計のやりくりに苦心する国民の実情を、全く理解していないのではないか。

給付を受けたくても、パソコンやスマートフォンを使いこなせない高齢者などもいる。余計な手間のかからない軽減税率の方が、全ての国民にとって公平かつ優しい制度である。

◆欧州の先例を見習おう

財務省は、軽減税率の導入を避ける理由として、対象品目の線引きの難しさや、複数税率化によって、取引ごとに税額を記入するインボイス(税額票)作成にかかる事務負担の重さを挙げる。

確かに対象品目の選定は手間がかかるが、税制を巡る利害を調整し、実現を図ることこそが、政治本来の責務である。

欧州各国では、半世紀も前から軽減税率を導入している。

食料品をはじめ、活字文化の保護に欠かせない新聞や書籍が対象だ。インボイスも、商取引の障害とはなっていない。

今の日本で、実施できないわけがあるまい。

[日経新聞] 社会保障・税一体改革の視点忘れるな (2015年09月11日)

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財務省は消費税率を10%に引き上げる際に導入する負担軽減案をまとめた。

消費税は低所得者ほど負担が相対的に重くなる「逆進性」があり、その対策は大事だ。今回の負担軽減策を単なるバラマキに終わらせず、実効性のある対策となるよう詰めるべき課題は多い。

日本型軽減税率制度と銘打った政府案は外食を含む幅広い飲食料品を対象に、消費税10%分を払った後に2%分を還付する内容だ。

税と社会保障の共通番号(マイナンバー)の個人番号カードにICチップが付いているのを生かす仕組みで、消費者は店頭の読み取り機にこのカードをかざす。

軽減する2%分はポイントの形で政府のサーバーに蓄積しておく。還付の際はパソコンなどで手続きをして、本人名義の銀行口座に振り込まれるという。

年間の消費税還付額には1人当たりの上限額が設けられる見通しで、高所得者の負担軽減に一定の歯止めをかけるなら妥当だ。税収が大きく目減りする事態も避けられる。

店頭で新たな事務が必要となるが、それ以外に企業の追加負担が基本的に生じないのも利点だ。

しかし課題はあまりに多い。消費者はマイナンバーの個人番号カードを使わないと還付を受けられない。高齢者や子どもを含めて大半の国民が本当に買い物の際に常にカードを持ち歩けるか。ネットに不慣れな高齢者が還付手続きをできるか。通信販売での使い勝手はどうか。零細な小売店も対応できるか。疑問点はつきない。

また、消費者はいったん10%分の税負担をするので、痛税感は残る。さらに軽減対象とする品目の詳細な線引きも必要になる。2017年4月の段階で実施できるかは不透明と言わざるを得ない。

忘れてならないのは、社会保障と税の一体改革の視点だ。消費税は年金や医療、介護といった社会保障制度を支える財源だ。その税負担をどう減らすかという目先の議論に追われて、社会保障制度の抜本的な改革についての議論が後回しになるようでは困る。

高齢者を一律に弱者とみなすのでなく、所得や資産に応じて負担してもらうべきだ。真に支援が必要な低所得者への適正な安全網を築くのも不可欠だ。所得税や社会保障の給付や負担をどう変えるかとセットで、消費税の負担軽減のあり方を考える必要がある。

[日経新聞] 電力改革へ監視委の重い役割 (2015年09月11日)

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電力小売りの全面自由化を来年4月に控え、電力が適正に販売されているかどうかを監視する「電力取引監視等委員会」が発足した。電力取引に目を光らせる「市場の番人」である。

電力や都市ガスの市場改革が成果を上げるには、公正な競争を促す監視委の役割が重要だ。全面自由化まで残り6カ月あまりの間に、取引のルールをしっかり整え、移行に万全を期してほしい。

監視委は経済産業相直属の組織だ。外部の有識者による5人の委員のほか、約70人の職員には弁護士や公認会計士も加わる。抜き打ちでの立ち入り検査や業務改善勧告ができるなど強い権限を持つ。

多様な事業者の参入を促し、競争を通じて電気料金を引き下げるには公正な競争環境が欠かせない。監視委が強い権限を与えられているのはこの実現のためであることを忘れてはならない。

既存の電力会社が新規参入者の活動を妨げるようなことがないか。不正な勧誘をしていないか。監視委は誰からも指揮や監督を受けない立場を生かし、自由化後の市場活性化を後押ししてほしい。

全面自由化により、消費者は電力会社を自由に選べるようになる。新しい電気の売り方やサービスの登場が期待される一方、消費者が混乱することがあってはならない。事業者が顧客に契約内容を正しく説明し、苦情に対処できる体制を整えているかなどの点をチェックすることも大切な役目だ。

販売する電気をどのような電源でつくっているかの情報開示のあり方や、代理店を使った営業をどこまで認めるのかなど、結論の出ていない課題もある。こうしたルールを早急に定め、広く周知することも重要だ。

電力10社は新規事業者が顧客に電気を送るために使う送電線の利用料を経産省に申請した。監視委はこの料金が適正かどうかも審査する。自由化の進展には送電線を誰でも公平かつ安価に使えることが不可欠だ。利用料に無駄はないかしっかり審査してほしい。

[毎日新聞] 社説:税負担の軽減策 還付案は直ちに撤回を (2015年09月11日)

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消費税率10%時の負担軽減策として、財務省が与党税制協議会に示したマイナンバー利用による還付案は問題だらけの内容だ。消費者に面倒とリスクを押しつけ、負担軽減も不十分である。与党は原点に戻って軽減税率を真剣に検討すべきだ。

財務省案は(1)軽減品目は酒類を除く飲食料品(2)10%の消費税を払う時、マイナンバーカードを店の端末機器にかざし、購入情報をオンラインで国に送る(3)国はその情報に基づき、後日2%分を還付(4)還付額には上限を設ける??との内容だ。

これでは痛税感は緩和されない。

買い物時にまず10%分を払わなければならず、買い物のたびに増税の重みを感じる。しかも、「1人4000円」といった還付の上限設定だと、負担軽減の実感は乏しい。消費意欲がしぼんで買い控えが広がり、景気への影響が心配になる。将来、税率が一段と引き上げられると、そうした懸念はさらに増す。

そもそもマイナンバーカードの利用には問題が多い。

買い物内容をカードに記録し、国に送るということは「いつ、どれだけ買ったか」を政府に把握されることになる。プライバシーが筒抜けだ、と嫌がる人は少なくないだろうし、その情報が漏れる恐れもある。

カードには、所得税額や年金といった個人情報も記録される。なくしたり、盗まれたりすると大変だが、近所の買い物にも持ち歩くなら不安が常につきまとう。負担を軽くするからリスクは受け入れろという発想は、消費税の納税者である国民をないがしろにしたものだ。

また端末機器は、全国の小売店に残らず設置しなければならないが、容易ではない。自販機はどうするのか。財務省は補助金などを用意する構えだが、消費税率が10%になる2017年4月に間に合うだろうか。

消費税は、増え続ける社会保障費をまかなう財源となる。巨額の財政赤字を考えると、将来の税率引き上げは避けられないだろう。その時、収入の中から生活必需品に支出する割合が高い低所得者ほど負担感は増すだけに、配慮が不可欠なのだ。

ところが、麻生太郎財務相は「複数の税率は面倒くさい」「カードを持って行きたくなければ持って行かないでよい。その分の減税はない」と言い放っている。消費税を国の財源として重視し、広く受け入れてもらう立場である財政・税制の責任者としての自覚がまるでない。

名ばかりの軽減策をめぐって時間を浪費するのはやめるべきだ。財務省の還付案は直ちに撤回し、低所得者対策であり、消費税の定着を図る対策の柱でもある軽減税率の具体化を急ぐのが本筋である。

2015年09月11日 02時34分

[毎日新聞] 社説:辺野古集中協議 政府に誠意がなかった (2015年09月11日)

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予想された展開とはいえ、政府に問題解決への真剣な姿勢が見られなかったのは残念だ。

政府と沖縄県が、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐって行った1カ月間の集中協議は、決裂した。政府は中断していた移設工事を来週にも再開する。翁長雄志(おなが・たけし)知事は埋め立て承認の取り消しを近く表明する見通しで、両者の対立が再び先鋭化するのは必至だ。

5回の協議を通じて、県側が強く問いかけたのは、沖縄の戦後史に対する政府の認識だった。

普天間は終戦直後、住民が収容所に入れられている間に米軍に強制接収されてできた基地なのに、危険な基地を返還させるのに、なぜまた辺野古という沖縄の土地を差し出さなければならないのか、と県側は重ねて訴えた。

政府側は、これには直接答えなかった。そして、日米の普天間返還合意以来の政府の基地負担軽減の取り組みを繰り返した。

普天間問題の「原点」として、県は1945年以降の米軍による土地の強制接収を強調し、政府は96年の普天間返還合意を語った。51年の開きは平行線のまま、埋まることはなかった。溝の大きさに、翁長氏は「お互い別々に70年間、生きてきたんですね。どうにもすれ違いですね」と菅義偉官房長官に告げたという。

菅氏は記者会見で、知事の主張に対して「賛同できない。戦後は日本全国、悲惨な中で皆が大変苦労して豊かで平和で自由な国を築き上げた」と語った。戦後は沖縄だけが苦労したわけではなく、歴史的経緯は移設反対の理由にならないと言っているように聞こえる。

寂しい反応だ。政府と一地方自治体がここまで冷たい関係に陥るのは、異常なことだ。

政府にとって今回の協議は、やはり、安全保障関連法案の審議と重なることで「二正面作戦」となるのを避けたり、政権の強硬姿勢を和らげて内閣支持率の低落を防いだりするのが狙いだったように見える。

議論を深めて理解を求めようとか、沖縄の思いに応えようという姿勢とはほど遠かった。一時的に政治休戦し、沖縄の声を聞いたという実績を作っただけではないか。

政府と県は、基地負担軽減策や振興策を話し合う新たな協議会を設けることでは合意した。翁長県政が始まって最初の数カ月間のように、話し合いもしない状態よりはましだ。それでも、政府が沖縄に誠意を示していることを見せる形式的な場に終わるという懸念はぬぐえない。

政府は、工事を再開してはならない。工事中断を継続し、今度こそ解決を目指して県と話し合うべきだ。

2015年09月11日 02時30分

[東京新聞] 司法試験漏えい 問題を見直す機会に (2015年09月11日)

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司法試験の問題漏えい事件は、大学教員の倫理観に依存している制度の危うさを露呈した。法曹人を選抜する試験で不正が起きるのは論外だ。再発防止のための具体策を緊急に検討せねばならない。

受験生の女性の得点は、この論文試験ではほぼ満点だったとされる。あまりに完成度が高いことが不審視された。問題を知っていなければ、これほどの答案を書くのが困難なほどだったという。

「司法試験考査委員」を務めた明治大法科大学院の青柳幸一教授を国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで法務省が告発したのも当然だ。既に青柳教授を考査委員から解任し東京地検が研究室などを家宅捜索している。

青柳教授は自分が作成にかかわった憲法の論文試験の出題内容を漏らし、論述内容を指導したことがわかっている。論文に記載すべきポイントを具体的に示し、添削まで行っていた疑いもある。司法試験はマークシート方式の「短答式試験」もある。短答式での問題漏えいはなかったのか、漏えいに至った動機は何なのか、早い実態解明が望まれる。

「考査委員」は法相が任命する非常勤の国家公務員で、青柳教授は二〇〇二年から務めている。憲法分野で問題作成をする十三人のうち、取りまとめをする「主査」の立場でもあった。この事件を単純な個人犯罪と済ませては、問題の本質を見失う。

問題作成する人物が、同時に学生を教えているという際どさが、現行制度には潜んでいるからだ。〇七年には考査委員だった慶応大法科大学院の教授が、試験前に答案練習会を開き、類似の論点を学生に教えていたことがあった。やんわりと教えようと思えば、それを防ぐ手だてはない。学生との接し方は、大学教員の倫理観に頼り切っているのが現状だ。

根本的な解決策としては、大学教員を考査委員から外せばいい。実際に〇七年に八十二人いた考査委員の学者は、〇八年に三十八人に減らした。

だが、問題作成には学者の視点が欠かせないという意見もあり、悩ましい。公正さを保てる仕組みづくりが急がれる。

だが、そもそも難易度が極めて高い“難問クイズ”のような試験が望ましいのだろうか。むしろ、思考力を問う基礎的な問題によって、法曹人の素養があるかどうかをチェックする方がいいのではないか。司法試験の内容を根本から見直す機会としたい。

[東京新聞] 鬼怒川決壊 救助と支援に全力を (2015年09月11日)

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台風18号とそれに伴う東日本の豪雨は、鬼怒川が決壊するなど、近年にない災害をもたらした。台風の進路から外れた関東でこれほどの被害が出たのは驚きだ。救助、支援に全力を挙げたい。

静岡県西部で六日朝から降りだした雨が始まりだった。八日には浜松市などで、台風が愛知県・知多半島に上陸した九日には三重県伊勢志摩地方などで、浸水や冠水被害が出た。台風は九日夜、日本海に抜けて温帯低気圧になったが、関東地方の集中豪雨はその後も続いた。

積乱雲が次々と生まれ、線状に並ぶ線状降水帯が東日本で大雨を降らせたという。集中豪雨は普通、幅二十〜五十キロと比較的狭い降水帯が数時間、停滞することで起きる。今回は幅が二百キロにもなり、同じような場所で長時間、降り続いたことで異常な雨量となり、災害を引き起こした。

気象庁は十日、栃木県と茨城県に特別警報を出して警戒を呼びかけた。関東地方では初めての特別警報となった。

鬼怒川の堤防が決壊した茨城県常総市は広範囲に冠水した。住宅に取り残された人も多く、地元の警察や消防だけでなく、自衛隊や東京消防庁なども出動して、救出作業などに当たっている。

安倍晋三首相は「政府一丸となって、人命の安全確保を第一に災害応急対策に万全を期す」と述べ、関係省庁に指示した。被災地支援を官民一体で進めたい。

大都市を流れる大きな川は、百年から二百年に一度の洪水に耐えられるように計画されることが多い。中小河川の場合は、十年から五十年に一度が多い。だが、国土交通省によると、堤防の決壊部分は、十年に一度起きると想定される規模の洪水にも対応できないとして、かさ上げなどの改修工事が計画されていたという。

被災地の映像を見て、心配になった人もいるだろう。個人でもできることはある。

携帯電話会社などは、災害時の緊急速報を携帯電話やタブレット端末にメールで送るサービスを始めている。衛星利用測位システム(GPS)と連動させて、今いる場所の情報を得られるサービスもある。危険を早く知り、安全な場所に避難するように心掛けたい。

今回の豪雨で、あなたや家族の携帯電話に、どのような情報が送られてきたのか、あるいは来なかったのかを確認することから始めてはどうだろう。

[産経新聞] 【主張】堤防決壊 「避難の大切さ」再確認を (2015年09月11日)

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災害から命を守るために、「早めの避難」の大切さを、改めて心に刻み込みたい。

台風18号から変わった低気圧は、北関東を中心に記録的な大雨をもたらした。茨城県常総市では鬼怒川(利根川水系)の堤防が決壊して川の水が大量に町を襲い、取り残された多くの住民が救助を求めた。

鬼怒川の堤防決壊は10日午後1時前だった。気象庁は同日未明に栃木県に、そして午前7時45分には茨城県にも大雨の「特別警報」を出した。

大規模な災害発生が差し迫っているか、すでに起こっている可能性があるときに発表する、最も切迫度の高い警報である。

「重大な危険が迫る異常事態」という表現も使って住民の注意を喚起し、「ただちに、命を守るための行動を」と繰り返した。

昨年の広島市の土砂災害を教訓とし、自治体も早めに避難指示や勧告を出すように努めている。台風や豪雨災害では、夜間や暴風が吹き荒れているときなど、自宅で安全を確保した方がいいこともあるが、「最悪のケース」を想定することを忘れてはならない。

東日本大震災では、巨大地震の発生から津波の到達までの時間が数十分あったが、1万8千人を超える犠牲者を出した。今回の堤防決壊は、特別警報の発令から5時間後である。

「正常化の偏見(バイアス)」という言葉がある。大規模災害や事件、事故に遭遇したとき、迫ってくる危険を過小評価し、「自分は大丈夫」「今回は平気だろう」などと思い込む心理のことだ。

今年2月の三陸沖の地震では、あの大震災を経験した岩手県沿岸でさえ、自治体の指示に従わず、避難を見合わせる人もいた。

災害時には、「逃げない理由」を見つけたがる傾向が、誰にでもある。災害の教訓を急速に風化させる、最も大きな要因だ。

その心理を一人一人が自覚したうえで、防災訓練などを通じて普段から、「可能な限り早く、安全な場所へ避難する」という防災の基本を徹底したい。

鬼怒川の堤防決壊に限らず、今回の大雨について、自治体の対応や住民の避難行動が最善であったかどうかも、きちんと検証する必要があるだろう。

誰かを責めるためではなく、次の災害時に生かすためだ。

[産経新聞] 【主張】日米原子力協定 継続は安倍首相の課題だ (2015年09月11日)

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日本のエネルギー政策の根幹に関わり、27年間続いてきた現行の日米原子力協定は、2018年7月に満期を迎える。

さらに3年の自民党総裁任期を得た安倍晋三首相は、これまで先送りしてきた感のある原子力問題を直視し、エネルギー安全保障の強化に取り組むことが必要だ。

米国との原子力協定は、資源小国・日本の国力維持に必須の枠組みだ。満期を機に、その打ち切りという事態に陥ると原発の使用済み燃料の再利用に基礎を置く核燃料サイクル政策は頓挫する。

ウラン燃料を使い捨てにせず、再処理などの工程を経て取り出せるエネルギーを飛躍的に増大させられるのが、核燃サイクルの魅力である。世界の非核保有国の中で日本だけが、再処理工場を持てるのもこの協定があるためだ。

安倍首相の総裁任期は、日米原子力協定の満期と一致しているだけに、その継続を確実にする責務も重なる。

日本の原子力発電は、福島事故から4年半が経過した今も、全原発43基中、九州電力川内1号機が稼働しているのみである。

原子力規制委員会による安全審査は、あまりに遅い。

安倍政権は、規制委改善のチャンスを生かすことなく傍観してきた。原発寄りの印象を国民に与えることでの支持率低下を心配しているのだろうか。エネルギーは国家の血液であることを思い出してもらいたい。

原発の使用済み燃料への対応も腰が重い。再処理工場は完成目前で止まったままだ。高レベル放射性廃棄物を地底に埋める最終処分場探しにも遅れが生じている。

この状況が米国の目に、どう映るのか。日本が特権として持つ核燃料サイクルを進める気がないと判断されると日米原子力協定の継続に影が差す。米国が日本の取り組みに疑問を持てば、延長はなくなろう。

日本は、30年の時点での電源構成に占める原子力の割合を20?22%としているが、稼働原発が少なければ、再処理によるプルトニウムをウランとの混合燃料にして消費する量も少なくなる。過剰のプルトニウム保有は、核不拡散上での無用な批判を招きかねない。

山積する課題解決へ安倍首相が先頭に立たなければ、日米原子力協定継続への環境整備は間に合わない。

[朝日新聞] 豪雨災害―命を守る機敏な対応を (2015年09月12日)

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記録的な大雨が東日本各地に甚大な被害をもたらした。茨城県と宮城県では、河川の堤防が決壊した。濁流が家を押し流し、田園や街が泥に沈んだ。

行方不明者の安否が気遣われる。長時間にわたり自宅などに孤立し、助けを待つ人たちもいる。政府はあらゆる組織を動員し、人命救助と物資・医療の支援に全力をあげてほしい。

栃木県では、数日間に1カ月分の2倍を超える雨が降った。地球温暖化との関連が疑われる極端な気象現象はもはや想定外とはいえない。あらゆる事態を念頭におき、社会の備えを不断に見直す努力が必要だ。

今回、とりわけ広範な災害を生んだのは河川の決壊である。地元当局者らからは「あまりの水量で堤防が耐えきれなかった」「まさかあそこが切れるとは」などの発言が聞かれる。

確かに日本各地の主要河川流域は、長年の治水工事の積み上げで安全度が高まったが、そこに過信はないか。過去になかったような雨量や水量が起こりえる今、むしろ河川は常にあふれたり、堤防が崩れたりしかねないものと考えるべきだろう。

国土交通省は、2012年の米国でのハリケーン被害で効果があったとして、関係者が事前にとるべき対応を時系列でまとめた行動計画(タイムライン)づくりに取り組んでいる。

例えば、風水害の発生を「0時」として、「96時間前/ホームレスへの注意喚起」▽「24時間前/休校の決定」▽「決壊直前/職員の退避」。今は東京都の荒川下流域などでの限られた試行だが、全国に広げたい。

今回、避難指示のタイミングや対象地域は適切だったのか。検証も必要だろう。

鬼怒川が決壊した茨城県常総市は未明に一部地区に避難を指示した。早めの対応だった。

ただ、肝心の決壊地区への指示は午前10時半だった。別の場所で川があふれたのは午前6時過ぎ、気象庁の特別警報は午前7時45分だ。どんな判断の流れで現地への指示が遅れたのか。

市東部は鬼怒川と小貝川の1級河川に挟まれ、かねて水害が多い。地元の記憶は防災に役立つ。住民の中には、避難勧告が出ていなくても、自主的に避難した人もいたようだ。

いざ災害が起こりかねない事態では、できるだけ自分の命を自分で守る基本動作が大切だ。

そのためにも、テレビやラジオ、自治体の防災メールなどで情報を集め、家族らとともに機敏に避難する心の備えをもっておく。台風シーズンが続く今、その原則を再確認したい。

[朝日新聞] 改正派遣法―権利守る改正が必要だ (2015年09月12日)

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改正労働者派遣法が成立した。悪質な派遣会社を排除するため、全て許可制にするなど、派遣会社への規制を強化したことが特徴で、派遣社員として働く人たちにとって、有益な点も含まれている。しかし、派遣社員の権利をどう守り、強化するか、という視点からの改正ではなかったために、積み残された課題が多い。さらなる法改正が必要だ。

これまでは、派遣社員を受け入れられる期間が業務によって規制されていた。専門的とされる「26業務」には制限がなく、それ以外は原則1年・最長3年だった。今回の改正では、業務によって違う期間にすることをやめて、派遣可能な期間は一律「原則3年」となった。

これまでの規制のもとでは、26業務であるかのように装ってそれ以外の仕事に就かせて期間の規制をすり抜ける不正も起きてきた。その余地がなくなる点も、評価できる点ではある。

しかし、改正によって、労働組合などの意見を聴いたうえで人を代えれば、同じ仕事を派遣社員に任せ続けることも可能になる。この点が国会での論議の焦点となり、野党は「不安定な派遣労働を広げる」「生涯派遣で低賃金の人が増える」と反対してきた。

そうした危惧が生じるのは、派遣社員の権利が強化されていないことに原因がある。

確かに、派遣会社には様々な義務が課せられ、派遣社員の能力を向上させ、雇用を安定させる仕組みが改正法には盛り込まれてはいる。しかし、派遣社員の処遇を改善するには、「均等待遇原則」を明示して、法律で裏打ちする必要がある。

派遣法と同時に成立した議員立法では、同じ価値のある労働の賃金を同じにする「同一労働・同一賃金」を進めるために調査・研究を進めることになった。こうした調査・研究を生かして、派遣社員が派遣先の企業で働く人たちと同等の待遇を求められるよう法改正をすることが、次の課題だろう。

派遣社員が派遣先と団体交渉をする権利を法制化することも検討するべきだ。

派遣先は「雇用主ではない」として、団交を拒むことが多く、その結果、派遣社員が低い労働条件に甘んじることにつながっていた。労働条件に大きく影響しているのは派遣先の判断だ。派遣社員の正当な主張が通る道筋を整えるべきだ。

派遣労働者の権利を拡大することで、派遣労働の乱用を防ぐ。そうした視点で、早急に次の法改正を目指すべきだ。

[読売新聞] 改正派遣法成立 雇用安定の実効性は高まるか (2015年09月12日)

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今国会の焦点の一つだった改正労働者派遣法が自民、公明両党などの賛成多数で成立した。30日に施行される。

派遣労働者の雇用安定と処遇改善に着実につなげることが大切だ。

改正法は、企業が派遣労働者を受け入れられる期間の制限を事実上なくすことが柱である。

従来は、正社員の仕事を守るため、受け入れ期間を最長3年に制限してきた。秘書など26の専門業務は例外だったが、改正法では、この区分を廃止し、全業務で労働組合などの意見を聞けば、企業は期間を延ばせるようにした。

一方、個々の派遣労働者については、様々な仕事を経験して技能向上を図る観点から、同じ職場で働く期間を原則3年までとする新たな制限を設ける。

派遣会社に対しては、計画的な教育訓練など派遣労働者のキャリアアップ支援や、派遣先への直接雇用の依頼といった雇用安定措置を義務づけた。

働き方の多様化を踏まえ、手薄だった派遣労働者の保護を強化する改正案は、妥当な内容である。企業が派遣労働者を活用しやすくなる利点もある。

これまで長く働けた専門業務の人も、3年で職場を変わることになる。「雇い止め」の不安を抱く人は多い。政府は、派遣先や派遣会社の動向を注視し、雇用安定への努力を促すべきだ。

国会審議では、政府・与党が「正社員への道を開き、処遇改善を図るもの」と強調したのに対し、民主など野党は「一生派遣」が増える、と強く反発した。

改正法には、野党の主張を取り入れた39項目に上る付帯決議が参院で採択された。その結果、衆院厚生労働委員会で、採決前に委員長の入室を妨害するなど「実力行使」に出た野党も矛を収めた。

付帯決議は、派遣会社が得る「マージン」に関する規制や、派遣労働者の直接雇用に消極的な派遣先への指導などを求めている。検討すべき課題だ。

改正法では、一部で認めていた派遣会社の届け出制を廃止し、全てを許可制とした。

教育訓練などを怠った業者に対し、許可取り消しも含めて厳しく指導監督する。厚生労働省にその能力があるかどうかが、改正法の実効性を確保するカギを握る。

許可制が有効に機能すれば、低コストのみが売り物の業者は淘汰(とうた)されよう。良質な業者を育てることで、派遣労働をキャリアアップの機会として定着させたい。

[読売新聞] 尖閣国有化3年 領土守り抜く体制を構築せよ (2015年09月12日)

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日本の主権に対する中国の侵害が続いている。政府は長期戦も視野に、万全の警戒・監視体制を構築せねばならない。

沖縄県石垣市の尖閣諸島を国有化してから、11日で3年を迎えた。

尖閣諸島の領有権を主張する中国は、今も毎月6?9隻の公船を周辺の領海に侵入させている。当初より隻数は減ったが、常態化した。1万トン級の大型巡視船も建造し、示威活動を続ける構えだ。

侵入の度に海上保安庁の巡視船が監視し、退去を求めている。

中国軍の動向も注視が必要だ。2013年11月、尖閣諸島上空を含む空域に防空識別圏の設定を表明した。海空軍の装備を増強、近代化し、東・南シナ海の制海・制空権の確保を狙っている。

中山義隆石垣市長の「現実的な脅威が高まっている」との指摘はもっともだ。政府と関係自治体が危機感を共有し、領土保全に戦略的に取り組む必要がある。

海保は従来、全国からの巡視船の応援派遣をやり繰りし、中国公船に対応してきたが、今年度中に大型巡視船12隻の専従体制を整える。ジェット機3機による空からの常時監視体制も、できるだけ早期に整備したい。

様々なシナリオを想定し、海保と自衛隊が緊密に連携して、切れ目のない対処を可能にしておくことが欠かせない。

オバマ米大統領は昨春、尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象だと確認した。強固な日米同盟が中国への最大の抑止力となる。

安全保障関連法案が成立すれば自衛隊と米軍の協力は大幅に拡大する。共同の訓練や警戒活動を一段と充実させることが大切だ。

自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を防ぐため、「海上連絡メカニズム」の運用開始も急ぐべきだ。

尖閣諸島が歴史的にも国際法的にも日本固有の領土であることを国際社会に積極的に発信し、理解を広げることが重要である。

戦後70年の今年、中国は、歴史認識に絡めた反日宣伝活動を展開している。こうした動きは、日本企業の対中投資や日本人観光客の減少などを招いた。

日中両国は、経済面で相互依存関係を強めている。領土や歴史認識を巡る対立があっても、実務的な協力や人的交流は進めたい。

安倍首相は、今月下旬の国連総会や10月末にも開かれる日中韓首脳会談などの機会を利用し、中国首脳との会談を模索している。

戦略的互恵関係の大局に立ち、率直な意見交換を行うべきだ。

[日経新聞] 備えの意識高めたい豪雨災害 (2015年09月12日)

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関東や東北で降り続いた雨は、各地に大きな爪痕を残した。茨城県常総市では鬼怒川の堤防が決壊して洪水が発生し、20人以上が行方不明となり、多数の住宅が全半壊した。宮城県など東北各県でも堤防の決壊や河川の氾濫が相次ぎ、収穫期のコメなど、農業への被害も出ている。

自衛隊や警察などは、いまだに孤立している住民らの救助に全力を挙げるとともに、被災者の支援に努めてもらいたい。着のみ着のままで避難している人も多く、生活必需品の支援は急を要する。

今回の豪雨被害は、西日本に居座った寒気や太平洋上の台風17号などの影響で、南北に連なる強い雨雲が停滞し、同じ地域に長い時間、降雨が続いた結果だ。

地球温暖化との関係は今後の分析に委ねられるが、一般論として、温暖化傾向で大気中の水蒸気が多くなっているところへ、高い海面水温の影響などによって暖かく湿った空気が入り込めば、同様の豪雨は起こりうる。日本は河川国で氾濫や堤防決壊の恐れは随所にあることを改めて指摘したい。

ただ、その対策として長い河岸の堤防を「100年に一度」といった被害にも耐えるべく強化し続けることは財政的に難しい。むしろ、適切な監視と情報の開示などで、早期避難の徹底を図ることが重要だろう。

鬼怒川の堤防決壊は10日午後0時50分ごろだが、気象庁は約5時間前、茨城県に大雨特別警報を発出し、「命を守る行動を」と呼びかけている。常総市も未明から各地区に避難指示を出した。

しかし、結果として、逃げ遅れや不明者が出た。指示が的確に伝わったのか、行政と住民の危機意識にズレはなかったのかといった検証も必要となろう。

今回を教訓に、対策が遅れている荒川や利根川など首都圏の大規模水害への関心も高めたい。中央防災会議の想定では最大230万人が避難を迫られる。地下街への浸水対策や住民の避難計画作りなど課題は山積している。
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