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[日経新聞] ユナイテッド事件の教訓は (2017年04月21日)

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米ユナイテッド航空が乗客を強制的に機内から降ろしたことへの批判が高まっている。この問題には中国など海外の関心も高く、同社のブランド価値が世界的に毀損しかねない状態だ。危機管理の観点から日本企業も他山の石とすべき事件である。

問題の発端は「降りたくない」と抵抗する男性を空港の治安当局が力ずくで引きずり出す動画がネット経由で世界に流れたことだ。無残に引きずられる男性の姿や周りの女性客の悲鳴も聞こえ、騒然とした様子が伝わってくる。

これだけでも衝撃は大きいが、世論の怒りの火に油を注いだのがオスカー・ムニョス最高経営責任者(CEO)のまずい対応だ。

最初のコメントでは、強制退去させられた男性を含めてオーバーブッキング(過剰予約)で飛行機から降りた4人の乗客に「便の振り替えをせざるを得ず、申し訳なかった」と表明しただけで、力ずくの行為についての謝罪はなかった。さらに社内向けのメールでは「(男性は)反抗し、けんか腰になった」と、相手に非があるかのような表現をした。

航空会社がある程度の過剰予約を受け付け、席が不足した場合は一定の代替措置をとって乗客の搭乗を断ることができるのは日本を含め世界的にほぼ共通のルールだ。だが、嫌がる乗客を暴力的に引きずり降ろすのは誰がみてもやりすぎだろう。

米航空業界は再編による寡占化が進んだ。客を客とも思わない事件の背景に寡占のおごりがあるなら、米当局は空の競争を活発にする策を講じる必要があろう。

加えて問題は世論の風向きに鈍感としかいいようのないCEOの対応だ。経営者は社内の指揮だけでなく、「会社の顔」として社会と対話する役目もある。

情報がネットで瞬時に拡散する時代に対応を誤れば代償は大きい。アンテナを高く張って世論に誠実に向き合い、コミュニケーション能力を発揮する。それが企業トップの欠かせない要件である。

[産経新聞] 【主張】正男氏裁判延期 すべての証拠を開示せよ (2017年04月21日)

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ティラーソン米国務長官は、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定することを検討中だと明らかにした。米下院はすでに再指定を求める超党派の法案を可決している。

再指定の検討は、金正恩・朝鮮労働党委員長の兄、金正男氏がマレーシアで殺害された事件を受けて始まった。

一方でマレーシアでは、事件の裁判手続きが滞り、延期されている。延期の理由は検察側の書類不備によるもので、殺人罪で起訴された女2人の弁護側が証拠物の提示を求めたのに対し、検察側がこれを拒否しているのだという。

独裁者の兄が他国で毒殺されたという特異な事件を、米国をはじめとする国際社会が公正に検証できるよう、すべての証拠は公判廷で開示されることが望ましい。

ベトナム国籍とインドネシア国籍の女が殺人の実行犯として起訴されているが、マレーシア政府はすでに正男氏の遺体を北朝鮮に引き渡し、北朝鮮国籍の容疑者らも帰国させた。このままでは実行犯2人の責任のみ問われ、事件の真相が闇に葬られかねない。

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北朝鮮は、殺人の被害者を北朝鮮の旅券を所持する「キム・チョル氏」であるとし、正男氏であることすら認めていない。

検察はまず、被害者の身元を正男氏であると断定した根拠を明示すべきだ。

マレーシアのザヒド副首相兼内相は、正男氏の子供から採取したDNA型と照合したと明らかにしている。子供とは誰なのか。採取や提供の方法についても、北朝鮮の反論を許さぬよう、具体的に開示されなくてはならない。

殺害に使用したとされる神経剤VXについても、詳細な成分分析の結果の公表を急いでほしい。

分析にはオランダ・ハーグの化学兵器禁止機関(OPCW)が技術的な捜査協力を行ったとされる。そうした国際機関による科学的データの開示が必要だ。

韓国国防省は、北朝鮮がサリンやVXなど2500?5000トン余の化学兵器を貯蔵すると推定している。正男氏の殺害事件を通じて北朝鮮における化学兵器の実相に迫ることも求められる。

北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり東アジアの緊張が極度に高まっている今、事件の幕引きや裁判の遅滞は許されない。金正恩政権の特異性を、この事件が象徴しているからでもある。

[東京新聞] 英国、総選挙へ 未練は断ち切れるのか (2017年04月21日)

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欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国で来月下院が解散され、六月八日に総選挙が実施される。EUへの未練を断つような世論をまとめ、離脱交渉を進めるきっかけにできるのだろうか。

メイ首相は声明で、前倒し総選挙を決めたのは最近だとし、離脱交渉を進める政府と、批判する野党のどちらを支持するか、民意を問うためと説明した。下院も解散に同意した。

総選挙で第一義的に問われるのは、離脱の進め方だ。首相は、移民規制のためなら欧州単一市場からの撤退も辞さない「強硬な離脱」の方針を打ち出し先月、正式に離脱を通告した。

最大野党の労働党は、離脱には反対しないが、EUとの通商関係は維持したい「穏健な離脱」を主張する。

しかし、争点は離脱の手法にはとどまらないだろう。

野党第二党のスコットランド民族党は離脱そのものに反対し、強硬な離脱を進めるのなら、英国からのスコットランド独立を問う住民投票を実施する方針を表明している。少数野党も離脱に反対だ。

昨年六月に実施された国民投票では、EU離脱派と反対派の差はわずかだった。「離脱すれば、EUに支払っている週三億五千万ポンド(約五百億円)もの拠出金を国営医療制度に充てられる」など、事実に基づかないキャンペーンも繰り広げられ、離脱決定後、後悔を表明する人も相次いだ。

総選挙は、正確な事実に基づいてEUとの関係を考え直し、納得して交渉を進めるための絶好の機会になる。

選挙で離脱についての世論が固まったら、EUとの協議を急ぎたい。残された交渉期間は二年を切った。EU側が求める多額の「手切れ金」を皮切りに法整備、貿易協定など詰めるべき難題は多い。EUとの取り決めのないまま、時間切れで無秩序に離脱するような事態になれば、経済的な混乱は世界に広がる。

離脱決定への「後悔」があまりに大きいとの民意が示されれば、離脱の当否そのものを再考するシナリオもあり得るだろう。

第一回投票が二十三日に迫るフランス大統領選や、秋のドイツ総選挙でも、反EUを訴える勢力が支持を広げている。戦後、欧州の平和と安定の礎となってきたEUだが、民意との乖離(かいり)や官僚主義など制度疲労も目立つ。英総選挙をEUを救う処方箋を考える機会にもしたい。

[産経新聞] 【主張】衆院新区割り 「土台」の議論に踏み込め (2017年04月21日)

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政府の衆院選挙区画定審議会が、小選挙区の定数を「0増6減」し、「一票の格差」を1・999倍に抑える新区割り案を勧告した。

これ自体は、与野党が成案を得られずに、衆院議長の諮問機関が出した答申に沿った内容で、すでに議論の余地は少ないはずである。

19都道府県、97選挙区で線引きが変更されることを考えれば、勧告を受けた公職選挙法改正案を早急に成立させ、新区割りの周知を図らねばなるまい。

それにしてもである。司法から格差をめぐる警告を受け、そのつど現行制度を前提に定数のつじつま合わせを行う。しかも、格差が生じる根本的な構造には手を付けない。いつまで同じことを繰り返すのか、改めて考えてほしい。

もとより、簡単に答えを出せる問題でないことはたしかだ。

投票価値の平等をどれだけ実現できるか。「2倍程度であればよい」というような、明確な理屈があるわけでもない。

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一方、人口減少と都市部への人口集中は止まらない。そうした中で、まず都道府県単位で分け、それをさらに分割して選挙区を置くやり方は、格差拡大の影響をもろに受けやすい。

むろん、人口基準のみで線引きの見直しを続ければ、地域社会の分断や崩壊を招きかねないことも考慮しなければならない。

難問が多ければ多いほど、国会はそれを避けず、あるべき議会制民主主義を見据え、それにふさわしい選挙制度づくりとは何かを真摯(しんし)に議論してほしい。

現行憲法は、国会議員を「全国民の代表」と位置付けている。選出地域の課題のみならず、外交安全保障や経済まで、日本や国際社会を考えて仕事をしてもらう必要がある。それは、憲法に書かれるまでもないことだろう。

それに値する人物をどのように選んだらよいか。これまでの議論は、その視点を欠いていないか。同時に、選挙制度は民意を集約し、政権を構築する勢力を選択する方策でもある。

参院側では「合区」の解消をめざす観点から、憲法を改正して参院は地方代表であると明確化する意見がある。その場合、衆院はどう位置付けるのか。

自己都合だけで、国のかたちにつながる選挙制度を論じていても答えは見つかるまい。

[東京新聞] 利用者負担上げ 「介護の社会化」は遠く (2017年04月21日)

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一定所得以上の利用者負担引き上げを盛り込んだ介護保険法の改正案が衆院を通過し、今国会で成立する見通しになった。矢継ぎ早の給付カットに「保険あってサービスなし」の事態が懸念される。

食卓の上には「もう限界です」との走り書きがあった。東京都八王子市で先月、認知症の妻(81)を殺害し、無理心中を図ったとして、夫(84)が殺人の疑いで逮捕された。睡眠薬を飲んで自殺を図った夫は「介護に疲れ、精神的に追い込まれた」と供述している。介護サービスは利用していたという。

こうした悲劇は後を絶たない。厚生労働省によると、介護を受けていた六十五歳以上の人が親族による殺人や心中などで亡くなったケースは自治体が把握しているだけで二〇一四年度は二十五件だ。高齢者虐待に関する調査では、家族などによる虐待と判断した件数は一五年度、一万五千九百件超に上っている。虐待の発生要因として最も多いのが「介護疲れ・介護ストレス」で、25%を占めた。

膨張する介護費用を抑制する目的で、政府は介護サービスのカットを次々と打ち出している。介護殺人・心中は今後、さらに増える恐れがある。

改正案は、単身者の場合、年収三百四十万円以上の人の利用者負担を二割から三割に引き上げることが柱だ。対象は約十二万人。利用者負担は原則一割だが、一五年八月から単身者で同二百八十万円以上の人は二割に引き上げられたばかりだ。このほか、軽度の要支援者向けの訪問・通所介護を市町村事業に移す見直しも、今月初めに完全実施された直後である。

こうした負担増による影響の検証もないまま、さらなる給付カットを実行しようとするのは、乱暴ではないか。しかも、将来的に二割、三割負担の対象が拡大されていくことも予想される。

改正案の審議中、厚労省は一部の利用者負担が二割になった一五年八月に、特別養護老人ホーム(特養)などの介護保険施設を退所した二割負担者は全国で約千六百人いたことを明らかにした。また、「負担二割」になった人の特養退所割合は3%で「一割負担継続」の人の倍近くだった。長期的に見れば、退所せざるをえないという人はさらに増えるだろう。介護が必要な高齢者とその家族にしわ寄せがいくことは必至だ。

介護を社会全体で担う「介護の社会化」という制度創設時の理念から遠ざかっている。

[読売新聞] 露朝新定期航路 対「北」包囲網の抜け穴作るな (2017年04月22日)

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北朝鮮の核・ミサイル開発の阻止に向けた国際包囲網の強化に、水を差す動きだと言えよう。

ロシア極東のウラジオストクと北朝鮮北東部の羅先を結ぶ新定期航路の開設が決まった。北朝鮮の貨客船「万景峰号」が来月から運航を始め、月に6回往復するという。

北朝鮮は羅先を経済特区に指定しているが、厳しい制裁下で中国やロシア以外の投資は望めまい。新航路は、極東やシベリアを中心にロシアに送り込んでいる数万人規模の労働者をさらに増やし、外貨を稼ぐのが狙いだろう。

ロシアは、農業機械の部品や飼料を輸出するという。過去にも、鉄道を連結させ、エネルギー分野での協力に意欲を見せている。利益は二の次で、北朝鮮に対する影響力拡大を外交カードとして利用する思惑があるのではないか。

トランプ米政権を揺さぶり、シリア問題などで譲歩を引き出そうとしているのなら、筋違いだ。

万景峰号はかつて、北朝鮮と新潟港を往来し、在日朝鮮人の親族訪問や修学旅行などに使われた。約200人の乗客や約1500トンの貨物を輸送できるという。

日本政府は、北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験に対する制裁措置として、2006年から国内への入港を禁止している。

忘れてはならないのは、ミサイル関連部品の運搬や違法送金、北朝鮮工作員の移動などに、万景峰号が悪用されたことだ。日本の公安当局などの捜査で実態が明らかになっている。北朝鮮の元技師による米議会での証言もある。

国連安全保障理事会の決議は、核・ミサイル関連物資の北朝鮮への輸出を禁じている。万景峰号が再び不正行為に使用される事態を防ぐには、ロシア当局の徹底した貨物検査が欠かせない。

米国は、北朝鮮経済の生命線を握る中国に、制裁圧力を強めるよう働きかけている。包囲網に中国を実質的に関与させられるかどうかの重大な局面で、ロシアが結束を乱すのは看過できない。

岸田外相が「責任ある安保理理事国として行動してもらいたい」と注文を付けたのは当然だ。

北朝鮮の16日の弾道ミサイル発射を非難する安保理の報道機関向け声明でも、ロシアは米国の草案に難色を示した。米露間の調整に時間がかかり、声明の発表が遅れたのは問題である。

プーチン露大統領は、北東アジアの非核化と安定が、政権の目標である極東地域の発展にも寄与することを認識せねばならない。

[読売新聞] 「退位」最終報告 円滑な実施へ残るは特例法だ (2017年04月22日)

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政府が設置した「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」が、最終報告を安倍首相に提出した。政府内では、退位を可能にするための特例法案の検討が進む。

天皇陛下の退位問題は、詰めの段階に入ったと言えよう。

有識者会議の最終報告は、退位に伴う制度上の提言が中心だ。

天皇、皇后両陛下の呼称は、それぞれ「上皇」「上皇后」とする。上皇は、摂政に就いたり、再び即位したりする資格を有しない。象徴としてなされてきた被災地訪問などの公的行為は、基本的に全て新天皇に移る。

新旧天皇の権威が並び立つ弊害を防止する観点から、いずれも妥当な内容だろう。

皇位継承順位1位となる秋篠宮さまについては、「皇嗣殿下」などとお呼びする案を示した。皇族費は、現在の3倍程度に増額し、宮内庁には「皇嗣職」を新設することも提案している。

実質的に皇太子の役割を務められる以上、欠かせない配慮だ。

政府は、こうした提言を特例法案に盛り込む方針だ。与野党の合意を取り付けた上で、5月後半に国会に提出する。

法案の骨子案は、衆参両院の正副議長が国会の総意として集約した「議論のとりまとめ」を尊重する一方で、相違点もある。

正副議長見解は、特例法の名称を「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」としたが、骨子案は、「天皇陛下」と記している。現在の陛下に限って適用する法律である点を強調しているのだろう。

恒久的な退位制度が、恣意(しい)的な退位などを招く恐れがあることを考えれば、これもうなずける。

退位を示唆した陛下の「お言葉」を盛り込むべきだ、との見解も、反映されていない。

「お言葉」に触れれば、天皇は「国政に関する権能を有しない」と定めた憲法4条に抵触しかねない。憲法に、より配慮した法案にするのは、適切な対応だ。

骨子案は「国民は陛下のご心労を理解、共感している」ことを退位の理由の一つに挙げる。今後の国会審議でも、この点に留意して、合意点を探ってもらいたい。

正副議長見解は、「女性宮家」創設など、皇位の安定的継承の方策を速やかに検討すべきだとも注文した。有識者会議の最終報告は女性宮家に言及していないが、皇族数減少への対策について、議論を深めるよう促している。

退位問題とは別に、政府には前向きな取り組みが求められる。

[朝日新聞] 「共謀罪」審議 数の力を乱用するな (2017年04月22日)

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「これは重大な問題なので、局長から答弁をさせます」

40年近く前に、当時の防衛庁長官がそんな答弁をした。同じような光景が衆院法務委員会で展開されている。

「共謀罪」をめぐる金田勝年法相の姿である。

質問者が法相を指名しているのに、法務省刑事局長が答える。局長の後、ほぼ同じ説明を法相が繰り返す――。

見過ごせないのは、そんな金田氏をかばい、数の力で法案成立を図る与党の姿勢だ。

野党の反対を押し切り、刑事局長を政府参考人として出席させることを委員長の職権で採決し、賛成多数で決めた。参考人の出席は全会一致で決めるのが慣例で、それを踏みにじったのは現行制度で初めてだ。

外部から有識者らを招く参考人質疑も、早くも来週に行うことを職権で決めた。

数の力を乱用した、極めて強引な国会運営というほかない。

「共謀罪」は、安倍政権自身が今国会の最重要法案の一つに位置づけている。人権の制限にもつながる法案であり、国民の関心も高い。

法相が自分の言葉で説得力のある説明をし、国民の理解を得る。それが法案に責任を持つ立場としての責務だ。それができないなら閣僚の資格はないし、法案は通してはならない。

与党の姿勢は、政治家同士の討論による政治主導の国会をめざす流れにも逆行する。

1999年の国会法改正で、官僚の委員会出席は原則として禁じられた。政府参考人制度は「細目的・技術的事項」について、官僚が閣僚を補佐するために設けられた。

政府参考人の答弁が、審議の充実に資する場合もあるだろう。だが、だからといって、閣僚の答弁能力がおぼつかなくていいはずがない。

金田氏は2月、「法案が国会に提出された後で、担当局長も加わって、法務委員会で議論すべきだ」とする文書を報道機関に配っていた。だから刑事局長に答弁を任せると言うつもりはないだろう。法案審議が本格化したいま、法相みずから先頭に立って答弁すべきだ。

数を頼んだ与党の横暴はこれにとどまらない。先週の衆院厚生労働委員会では森友学園への国有地売却問題について民進党議員が安倍首相に質問すると、「法案と関係ない」と反発した与党が採決を強行した。

閣僚の問題発言がやまないなか、国会では与党の一方的な運営がまかり通る。およそ「言論の府」の名に値しない。

[朝日新聞] 退位報告書 政権への忠実が際立つ (2017年04月22日)

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天皇退位の是非やそのあり方などを検討してきた有識者会議が、最終報告をまとめた。

「国民の総意」づくりに向けた骨太の論議を期待した。だが任命権者である安倍政権の意向をうかがった結果だろうか、踏み込み不足が目立ち、最終報告も退位後の称号などに関する見解を並べるにとどまった。

この問題に対する政権のスタンスは明らかだった。

退位を認めず、摂政の設置や皇族による公務の分担で対応する。やむなく退位に道を開く場合でも、今の陛下限りとし、終身在位制を維持する。一部の保守層が反発する皇室典範の改正は行わない――というものだ。

昨年秋に設置した会議の名を「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」という分かりにくいものにしたことからも、その思いは明らかで、国民の意識とのずれが際立っていた。

有識者会議はこれを踏まえ、疑問の多い運営を続けた。

ヒアリングでは、明治憲法下の特異な天皇観に郷愁を抱き、象徴天皇制への理解を欠く論者を多数招いた。年末には早々と「退位は一代限りということで合意した」と説明し、その線に沿ってまとめた「論点整理」を今年1月に公表した。

こうしたやり方に各方面から批判があがり、会議は求心力を失って議論は国会に引き取られた。各党・会派の意見を受けた衆参両院の正副議長による3月の「とりまとめ」は、今回の退位を例外的措置としつつ、「将来の先例となり得る」と明記するものとなった。いま政府はこれに反する特例法骨子案をまとめ、押し返そうとしている。

象徴天皇のあるべき姿や、高齢社会における円滑で安定した皇位継承の進め方について、有識者会議が突っ込んだ話をしなかったことが、なお混乱が続く原因のひとつといえよう。

最終報告は末尾で、皇族の数が減り、活動の維持が難しくなっていることに触れている。

「先延ばしのできない課題」「対策について速やかに検討を行うことが必要」とする一方、5年前に野田内閣が打ちだし、国会の「とりまとめ」に盛りこまれた「女性宮家」への言及はない。女性・女系天皇の容認につながるとして、女性宮家構想を議論すること自体を忌避してきた政権の影を、こんなところにも見ることができる。

天皇退位という、扱いを誤ると政権基盤を揺るがしかねない重いテーマを前に、振り付けられたとおりに動くしかない。そんな「有識者」会議になってしまったのは、きわめて残念だ。

[日経新聞] 退位の議論では残る課題の解決も急げ (2017年04月22日)

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天皇陛下の退位に向け政府が検討してきた特例法案の、骨子案が固まった。衆参両院の議長らのもとで各党各会派が話し合い、3月にまとめた国会提言の内容をおおむね踏まえたものである。

一方、政府の有識者会議も最終報告をまとめ、安倍晋三首相に手渡した。退位後の陛下のお立場や、皇位継承順位が1位となられる秋篠宮さまの呼称に言及した。法案に反映されるものとなる。特例法案は5月の連休明けに国会へ提出される見込みである。

新しいかたちの退位へ向けた制度設計は、世論の後押しもあって着実に進んでいるようにみえる。しかし、残る課題も多い。政府、国会とも、その解決に全力をあげてもらいたい。

国会の議論では、皇室典範の付則に「特例法は、典範と一体をなす」と明記することで、各党が歩み寄った経緯がある。退位は例外的措置と位置づけ、同時に特例法が将来の退位の先例としても機能し得ることを示した合意だ。

ところがこの内容に必ずしも沿っていないとして、政府の骨子案の一部に反発の声が出ている。たとえば、国会提言は法案名に「天皇」を使っていたが骨子案は「天皇陛下」としている。退位容認は一代限りとする趣旨が鮮明になったのでは、との指摘がある。

他の部分も含め、今後、国会提言を軸とした丁寧な擦り合わせが必要となる場面が予想される。くれぐれも政争の具にしないよう、議論を深めてほしい。

退位の日について骨子案は、法律の公布から3年以内の政令で定める日、とした。皇太子さまの即位で元号が新しくなれば、国民のくらしや、さまざまな業界の活動に大きな影響が及ぶ。スピーディーで、かつ漏れのない周知や対策を進めていく必要がある。

有識者会議が最終報告で指摘したように、皇室の現状をかえりみる時、皇族の減少について抜本的で速やかな検討が求められるのは明らかだ。国会提言はさらに踏み込んで「女性宮家の創設等」との文言を盛り込んでいる。

現行の制度のままだと、遠くない将来に、国民が皇室に期待している多様な役割を十分には果たせなくなる可能性も、出てくるのではないだろうか。

議論をタブー視することなく、専門家の知見も借りながら「国民の総意」で新しい皇室像を模索しなければならない。

[日経新聞] サービス残業を根絶する時だ (2017年04月22日)

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賃金を払わずに時間外労働をさせるサービス残業が依然として横行している。ヤマトホールディングス(HD)や関西電力では従業員の多くで残業代の未払いがあることが明らかになった。

時間外労働に適切な割増賃金を支払わないのは違法であることを、企業の経営者ははっきり認識すべきだ。サービス残業は健康にも悪影響を及ぼし、見過ごせない問題である。業務の効率化も進め、一掃するときだ。

ヤマトHDは宅配便の運転手を中心に、過去2年間で4万7千人に残業代の未払いが見つかったと発表した。総額は190億円にのぼる。関西電力は2016年末までの2年間で1万2900人に計約17億円の時間外賃金を払っていなかった。

業務量の増加などの事情があったとしても、企業の責任は重い。関電は02?04年にも残業代の未払いがあった。猛省を求めたい。

連合のシンクタンク、連合総合生活開発研究所(連合総研)の昨年10月の調査では、時間外労働をした人のうち38%が残業代の不払いがあったと答えている。サービス残業は産業界全体の問題だ。

まず管理職が意識を改める必要がある。連合総研の調査では、勤務時間を「上司から調整するよう言われた」という人が少なくなかった。「働いた時間どおりに申告しづらい雰囲気がある」との回答もめだっている。

違法行為を放置すれば企業への信頼が失墜することを経営者は自覚すべきだ。法令順守の徹底が求められる。業務を点検し、不要な仕事をなくすことも欠かせない。

悪質な企業を排除するには、行政による監督指導を強化する必要もある。労働基準監督署の人員不足を補うため、ハローワークの職業紹介業務の民間開放を進めて、それに従事している公務員を振り向ける手もあるだろう。

残業時間への上限規制を設けても、サービス残業が広がったままでは働き方改革の実をあげることはできない。悪弊を断つときだ。

[毎日新聞] 特定秘密の指定審査 存在せぬ情報が機密とは (2017年04月22日)

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「何が秘密なのかも秘密になるのでは」という特定秘密保護法成立時の懸念を地でいくような運用だ。

秘密指定の妥当性をチェックする衆院の情報監視審査会が、年次報告を公表した。2015年末時点で443件ある特定秘密の4割弱で、該当する行政文書がなかったという。

その中には、文書化されていない担当職員の知識を特定秘密に指定したり、「竹島問題に関する情報」などとあらかじめテーマを決めて指定したが、結局情報を得られなかったりしたケースがあると報告された。

特に、防衛省や公安調査庁が、職員の頭の中にあるとする知識を特定秘密に指定していたことには驚く。全く検証不可能で、指定の妥当性を第三者が判断することはできない。

審査会は暫定的なケース以外ではこのような指定を行わないよう求めたが、当然だろう。文書になっていない特定秘密は、指定に当たって速やかに文書にして残すべきだ。

事前に特定秘密に指定しておく「あらかじめ指定」も問題だ。

特定秘密保護法は、安全保障上重要な国の情報を一定期間、特定秘密に指定できる法律だ。民主主義の基盤である国民の「知る権利」が制約を受ける副作用は大きい。それだけに指定に当たって恣意(しい)的な運用は許されず、厳格さが求められる。

だが、見込みだけでの指定は機械的に行われ、チェックが甘くなる恐れがある。審査会も、特定秘密の対象が際限なく広がらないようにする保護法の基本原理から外れた運用だと指摘した。政府は根本的に姿勢を改めなければならない。

特定秘密を記録した文書の廃棄を準備している省庁があるという。いったん廃棄されれば、事後の検証は困難になる。公文書を保存することの重要性を行政機関は十分に認識しているのだろうか。

09年の公文書管理法制定時、国会は付帯決議で、原則として何でも文書に残す文書主義の徹底を行政機関に求めた。その理念があまりに軽んじられている。

審査会が今回、一定の是正を政府に突きつけた点は評価できる。だが、より強い措置である国会法に基づく改善勧告までは踏み出さなかった。政府の是正状況に目を光らせ、さらに厳しく対応すべきだ。

[毎日新聞] 天皇退位の有識者会議報告 経緯踏まえた法案作りを (2017年04月22日)

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政府の有識者会議が天皇退位後の制度設計などに関する最終報告をまとめ、安倍晋三首相に提出した。これをもとに政府は今の陛下の退位に向けた法案作りを進める。

報告は3月の衆参両院の正副議長による国会見解の内容を明記した。皇室典範の特例法による退位を前提として陛下の退位後の称号など法案に盛り込む内容を提言した。

天皇退位は歴史上58例あるが、明治の旧皇室典範や今の皇室典範に退位の規定はない。実現すれば約200年ぶりとなる。

報告では退位後の称号を上皇(じょうこう)とした。太上(だいじょう)天皇や前(さきの)天皇などの案もあったが、天皇と付く称号を排し、公的行為もすべて新天皇に譲るのが適切とした。象徴の二重性を回避する観点から妥当だといえよう。

制度設計だけではなく、皇族の減少に対する議論も促した。秋篠宮(あきしののみや)さまの長男悠仁(ひさひと)さまと同世代の皇族が将来一人もいなくなることも予想されると強い懸念を示した。

戦後の宮家皇籍離脱以降、皇族が最も多かったのが、1994年に佳子(かこ)さまが生まれて25人になったときだ。現在は18人まで減り、このうち未婚の皇族女子は7人いる。

皇室典範は、皇族女子が結婚した場合は皇族から離れると定める。天皇家を除き、宮家がいずれなくなってしまうのではないかということへの警鐘であり、意味ある提言だ。

ただし、経緯を振り返ると有識者会議の位置付けは揺れた。陛下一代限りの特例法という結論が先行する形で始まり、途中からは正副議長協議が立法形式を決める場となった。

国会見解がまとまると、厳粛に受け止めると安倍首相が表明したことを踏まえ、残された課題を議論した。退位を包括的に検討し結論を得るという当初の位置付けは薄れた。

首相官邸の影響も報告には色濃く残った。国会見解で言及された「女性宮家の創設」には触れていない。首相官邸は女性・女系天皇の布石になるとみて否定的とされる。

報告よりも先に政府の特例法案の骨子案や付帯決議案が作られ、報じられたのも筋が通らない。しかも国会見解に比べ陛下一代の退位を強調する表現になっているという。

順序も内容もこれまでの流れを軽んじた政府の対応には問題がある。

[東京新聞] 温暖化と私たち 風が吹けばポテチが (2017年04月22日)

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風が吹けば、ポテチが消える−。それはつまり、温暖化は台風に姿を変えて北海道に上陸し、その影響が私たちの暮らしの中に分け入ってきたということだ。気候変動は人ごとではないということだ。

畑の異変は、暮らしに及ぶ。

この春、ポテトチップスの販売の完全中止や一時休止が相次ぎ、商品の種類が激減した。

原因は、気候変動、温暖化だと言っていい。

ジャガイモの主産地、北海道十勝地方では昨年、六月に長雨が続き、八月だけで三つの台風が上陸し、畑の被害も相次いだ。

近年まで、梅雨はなく、台風とも無縁に近かった北海道。気候は急変しつつある。国内産の八割を占める道産ジャガイモの出荷量は、前年に比べ約一割、減少した。

ポテトチップスメーカーは、国産志向が強い。100%をうたう大手もある。輸入を増やすにも限りがある。五月から九月に収穫される原料の不足が反映されて、メーカー側は定番や売れ筋商品への絞り込みを余儀なくされた。

大手ネットオークションサイトに、「入手困難」になった商品が、二十袋十二万円で出品された例もあるという。

世界の年間平均気温は三年連続で最高を更新中だが、十勝でも夏場の高温による農業被害が近年目立つ。もともと寒冷地で強く高温に弱いジャガイモ、小麦は、それでなくても近年は減少傾向にあるという。一方で、サツマイモやワインブドウの適地になりつつある。激変だ。

水産の分野でも、海水温の変化によるとみられるサケの不漁、ホタテの斃死(へいし)も深刻化しつつある。

農産物は、天気のたまものだ。それだけに農業王国北海道では、温暖化の推移にも敏感だ。

北海道開発局と道が先月まとめた「今後の水防災対策のあり方」に関する提言は、道内で毎時三〇ミリを超える大雨が三十年前の約二倍に増加と指摘して、今世紀末には最大日降水量が今の一・二四倍になるとの予測を提示。「気候変動の影響が現実のものになったと認識し、北海道から先導的に気候変動の適応策に取り組むべきだ」と訴える。

“消えたポテチ”が、教えてくれている。

温暖化はすでに北海道の主産業に大きな変化をもたらして、私たちの暮らしにも入り込んでいる。

米大統領が方針を変えようと変えまいと、それは私たち自身の身近に迫った重要な課題なのだと。

[産経新聞] 【主張】パリ銃撃テロ 民主主義への挑戦許すな (2017年04月22日)

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パリ中心部のシャンゼリゼ通りで、男がパトカーを銃撃し、警察官らが死傷した。男は銃撃戦の末、射殺された。

凱旋(がいせん)門を背景にフランス人が「最も美しい通り」と呼ぶパリ随一の観光地は騒然とした。観光客や買い物客が逃げ惑い、警察、救急車両が道路を埋め尽くした。

繁華街で凶行を起こし、人々を恐怖に陥れる。卑劣なテロはどんな理由であれ容認できない。

なにより、仏大統領選に照準を合わせたかのような犯行は許し難い。民主主義に対する暴力をはねのけてもらいたい。

男は情報当局の監視対象だったといい、過激組織「イスラム国」(IS)はインターネット上で犯行声明を出した。

捜査当局は全力を挙げ、犯行の動機や共犯者の有無、ISとのつながりなど背後関係を早急に解明してもらいたい。

2015年11月のパリ同時多発テロ直後から、フランスは非常事態宣言下にある。厳戒態勢下で、なぜ凶行が可能だったのか。徹底した検証も必要だろう。

仏大統領選は23日の第1回投票で、過半数を獲得する候補者はないとみられており、5月7日の決選投票に向かえば、さらに2週間の選挙戦が繰り広げられる。

最後まで、自由な議論を戦わせ続ける。それがテロに屈しないことの証しである。テロの企てに対し、一層の警戒が必要なのは言うまでもない。

欧州の一部では、反イスラムや排外主義的主張が叫ばれ、テロそのものが仏大統領選の主要争点の一つにもなっている。

重要なのは、テロとの戦いをやめることはできないし、フランス一国でなし得るのは難しいことである。国際社会として取り組みを続けなければならない。

テロ事件の背後にいるイラクとシリアのIS本体に対しては、米主導の有志連合などによる掃討戦が大詰めを迎えつつある。

米国は、マティス国防長官のサウジアラビアなど中東諸国歴訪を通じ、地域での対テロ連携を確認した。アフガニスタンのIS地下施設を、通常兵器としては最大破壊力の爆弾で攻撃した。

新たなテロとの戦いに歩みを進めているといえよう。フランスはじめ欧州各国がどうするのか、世界は注目している。日本も傍観者ではいられない。

[産経新聞] 【主張】譲位の最終報告 伝統を大切に法案整えよ (2017年04月22日)

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天皇陛下の譲位について政府の有識者会議が、「最終報告」を安倍晋三首相に提出した。今上陛下一代に限り実現する特例法の制定を支持し、称号を「上皇」とするなど譲位後の制度が示されている。

与党や民進党はすでに3月の国会見解を受けて政府がまとめた特例法骨子案について非公式協議を始めている。今回の最終報告と与野党協議を踏まえ、政府は特例法案をまとめる。5月19日に閣議決定して国会へ提出する運びだ。

83歳のご高齢である陛下は、ベトナム・タイご訪問など今年も公務に精励されている。陛下を敬愛する国民の願いは、譲位の実現によって、多年のご心労を少しでも解いて差し上げることだろう。

滞りなく法案準備を進め、今国会で成立させることが最も大切である。

最終報告は譲位後の称号を「上皇」に、皇后陛下は「上皇后」が適当とした。皇位継承第1位となる秋篠宮殿下は、「秋篠宮皇嗣殿下」や「皇嗣秋篠宮殿下」などとお呼びする案を示した。

伝統に基づく皇室の制度は、新しい称号よりも、歴史のつながりを踏まえるのが望ましい。政府はその感覚を大切にしてほしい。

有識者会議のヒアリングで意見が出たように「太上天皇」を正式とし、いつもは略称の「上皇」とするのが自然ではなかったか。同様に「皇太后」「皇太弟」の称号のほうが分かりやすい。「皇太弟」は、皇室典範第8条に書き込めばよいはずだ。

上皇のご活動をめぐり、象徴としてのお務めは全て新天皇に譲られるとしたことはもっともだ。

そのうえで強調したいのは、上皇は新天皇に対する最良の助言者であるという点だ。歴史を振り返れば、上皇が時の天皇や皇太子に対して、徳を積み、学問に励むよう諭されるなどよき導き手の役割を果たされることがあった。

このような助言は院政とは異なるし、全くの私事でもあり得ない。もちろん象徴たる立憲君主は天皇お一方であり、二重権威の懸念は当たらない。

皇族減少への対策を急ぐよう提言したのは評価できる。「女性宮家」は、一つの例外もない皇室の伝統を踏まえ、女系継承はあり得ないことが前提だ。旧宮家の皇籍復帰が、皇位継承の安定化を含め本筋の課題となるべきである。

[東京新聞] 天皇退位報告書 国民の総意に基づいて (2017年04月22日)

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退位した天皇陛下は「上皇」−。有識者会議の最終報告書がまとまった。前提は一代限りの特例法で行うことだ。皇族の減少対策や女性宮家創設など根本問題は残る。もっと深い議論が必要だ。

報告書は退位後の称号や活動の在り方などをまとめたものだ。陛下は昨年八月に高齢に伴う象徴天皇として公務に対する不安を述べられた。それを契機に政府は有識者会議を設けた。退位については皇室典範を改正する方法もあったが、早々と「一代限りの特例法」での議論が進んだ。最初から結論ありきかと思わせた。

一方、陛下が訴えられた退位は決して「一代限り」の問題ではありえない。高齢化は皇族内でも進み、誰でも国事行為のみならず、「象徴としての公的行為」がままならなくなる事態は起こりうる。だから、未来にも通じる天皇の退位のルールをつくることが最も求められていたのではなかったろうか。恒久制度化である。国民の中にもそう望む声は少なくない。

だが、恒久制度化についてはほとんど顧みられることなく、特例法ばかり論じられた。五月の連休明けに退位特例法案が提出される予定になっている。

この点について衆参の正副議長見解では「将来の天皇の退位の先例となり得る」と示していた。制度化につながるものだったが、与党が示した法案骨子ではばっさり削られていた。

憲法一条は象徴天皇制を定めている。その地位は国民の総意に基づくとしている。大事な条文だ。だから、退位については、もっと明確にすべきであると考える。

有識者会議の報告書では、皇族の減少対策について、国民各層で議論の深まりを期待すると言及するにとどまった。あまりに消極的にすぎないか。

陛下の孫の世代にあたる皇族は四人だけで、そのうち三人は女性である。秋篠宮さまを「皇嗣(こうし)殿下」とするが、その次はもう陛下の孫の世代になる。遠い未来の話なのではない。結論を先延ばしにすればするほど、ややこしく難しくなる問題でもある。

旧民主党政権下で論点整理まで行いながら、政権交代によって、この問題は放置されてしまった。安定的に皇位を継承するにはどうしたらいいか。

女性宮家の創設や男系に限られている皇位継承の在り方についても議論を続けねばならないはずだ。国民の総意のかたちで結論を出したいテーマである。

[読売新聞] M&A損失 買収後の管理が成否を分ける (2017年04月23日)

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将来の成長を見込んだ巨額投資が一転、経営の足かせになりかねない。企業は買収戦略の巧拙を一段と問われよう。

過去のM&A(合併・買収)に伴う損失を計上する企業が増えている。特に海外案件で思うような成果を上げられず、「負の遺産」となる事例が目立つ。

日本郵政は、2015年に6200億円で買収した豪物流会社の業績不振で、17年3月期に数千億円の損失を計上する見通しだ。

東芝の経営危機も、米原発子会社の巨額損失が引き金となった。楽天は米動画配信会社が不振で、キリンホールディングスはブラジル企業の買収が裏目に出た。

注目されるのは、買収時に企業が計上する「のれん」と呼ばれる無形資産の急増だ。証券界の試算では、東証1部上場企業の総額は20兆円超まで膨らんでいる。

のれんは、買収相手の純資産と買収価格の差額で、ブランド力や技術力など目に見えない企業価値に当たる。買収価格が高くなるほど、のれんの金額は増大する。

買収先の業績が悪化すれば、企業は、のれんの評価を引き下げ、その分を損失として計上しなければならない。巨額なのれんは、それだけ潜在的なリスクを抱えているということでもある。

日本企業が手掛けるM&Aは近年、10兆円規模にのぼり、大半は海外企業が対象という。のれんの増加は、経営戦略としてM&Aが多くの企業に定着した傍証だ。

人口減や少子化で国内市場が縮小していく。日本企業が海外に活路を求めようとする姿勢は理解できる。グローバル競争を生き残るには、海外M&Aを使いこなす経営能力が欠かせない。

企業に求められるのは、自らの特徴を生かして成長に資するM&A戦略を構築することである。

ブームに押され、「M&Aありき」で臨むのは危うい。実現を急ぐあまり、相手の事業や人材を精査せず、適正価格を大幅に上回る「高値づかみ」になりがちだ。

本業との相乗効果が見込めないようなら、手を出さない判断があっていい。資産内容や収益性などを見極めるノウハウを蓄積し、人材を確保することが大切だ。

買収企業の経営体制にも、厳しい目を向ける必要がある。現地に任せきりでは、不祥事や損失を見逃し、親会社の業績に直結する傷を広げかねない。軽視されがちな買収後の管理を徹底できるかどうかが、成否を分ける。

「買収したら終わり」では、せっかくのM&Aも意味がない。

[朝日新聞] 遺留金 地域に生かす仕組みを (2017年04月23日)

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眠らせたままにせず、地域社会のために生かす方策を考えたい。身寄りのない人が他界した時に所持していたが、引き取り手がなく、自治体が保管している現金のことだ。

こうした遺留金について朝日新聞が政令指定都市と東京23区に尋ねると、大阪市の約7億2200万円を筆頭に、39自治体で計約11億4200万円になることが分かった。1人当たりの額は多くて数十万円に満たないが、北九州市は5年で倍以上の約6350万円になるなど膨らむ傾向にある。

背景には高齢の単身者の増加がある。一人暮らしの人が亡くなると、自治体は相続人となる遺族を捜すが、連絡に応答がなかったり、「縁を切った」などと受け取りを拒まれたりする場合が少なくないという。

遺族が「相続放棄」の手続きを取らない限り、自治体は手をつけづらいのが現状だ。

相続人が見つからなければ、自治体の申し立てで家庭裁判所が弁護士らを「相続財産管理人」に選任し、債務整理などを経て残った分は国庫に入る。ただ、手続きで自治体が新たな公費負担を強いられることになるため、遺留金が少額の場合、そのままにしてあるのだ。

自治体からは国の対応を求める声が相次いだ。

累積が4400万円を超し、大阪市、北九州市に次いで多い神戸市の久元喜造市長は、定例会見で「自治体の手元に法令上根拠のないお金が残っているが、現行では制度が追いついていない」と語り、国に制度改正を求める方針を示した。

高齢化や非婚率の上昇、家族関係の希薄化を背景に、遺留金は今後も増えるおそれがある。国は自治体任せにせず、早急に対策を講じるべきだ。引き取り手が一定期間を過ぎても現れなければ、自治体が活用できるような法整備を求めたい。

10年以上出し入れがない預金口座については、NPOや自治会の公益活動に活用する「休眠預金活用法」が昨年、成立した。遺留金も同じ考え方で、自治体の「歳入」に組み入れ、NPOが運営する子ども食堂やフリースクールの支援に回すなど、次世代にいかす仕組みを検討できないだろうか。

高齢者の孤立化を防ぐ努力も尽くしたい。お年寄りが人生で身につけた知恵や技を子どもらに伝授できるような居場所が身近にできれば、わずかな財産でも地域社会に生かしたいという人が増えてくるのではないか。そうすれば、塩漬けの遺留金もおのずと減るはずだ。

[読売新聞] 日米財務相会談 為替安定へ意思疎通を深めよ (2017年04月23日)

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米国が日本に円安批判を強める事態はひとまず回避された。両国は意思疎通を深め、為替の乱高下を防ぐ必要がある。

麻生財務相がワシントンで、ムニューシン米財務長官と会談した。焦点の為替政策について、財務当局で議論していく方針を確認した。今月始まった日米経済対話では、為替を議題にしないことを明確にした。

トランプ米大統領は最近、「ドルが強くなりすぎている」と述べ、米国の輸出に不利なドル高を問題視した。一方、ムニューシン氏は「長期的には強いドルは望ましい」として、米国のドル安誘導観測を打ち消していた。

麻生氏は会談後、トランプ発言について「問題にならない」と強調した。米国が今後、対日貿易赤字に絡めて円安・ドル高を必要以上に争点としない、という自信を持ったのだろう。

政策責任者が為替に関して場当たり的な発言を続けると、市場関係者が疑心暗鬼に陥り、相場の混乱を招く。日米当局は密接な情報交換を図り、為替市場の安定を目指すことが求められる。

会談に続いて開かれた主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、経済の安定を脅かすような過度の為替変動を避ける必要性で一致した。

世界経済の成長維持に向け、金融政策、財政政策、構造改革を総動員することでも合意した。

日本の金融緩和について、トランプ氏は円安批判の中で言及したが、日本はデフレ脱却のためだと説明していた。そうした主張が各国の理解を得たと言えよう。

世界経済は回復基調にあるものの、盤石ではない。仏大統領選を始めとする欧州の政治日程、中国の不良債権、保護主義の台頭などの下振れリスクが残っている。

会議では、「米国第一」を掲げるトランプ氏の言動を受け、自由貿易の重要性を指摘する声が相次いだ。議長のショイブレ独財務相は「自由貿易が、どの国の経済にとっても好ましいということで基本的に一致した」と総括した。

麻生氏は、G20後の記者会見で「米国の国益を考えても自由貿易は良い話だ」と述べ、ムニューシン氏が保護主義の不合理さを理解しているとの見方を示した。

日本は、米国を除く11か国で環太平洋経済連携協定(TPP)の発効を目指す。米国を孤立させず、多国間の枠組みへの回帰を促すことが大切だ。自由貿易を推進するため、日米政府間の様々なルートで信頼醸成を図りたい。
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