世界の各地に緊張や紛争が広がる中で国会の論戦が始まりました。二〇一六年、私たちの暮らしと平和を一歩でも前に進めたいものです。
昨年の暮れ、アベノミクスの評価をめぐって論説室でちょっとした論争がありました。
「株高と円安で大企業がもうかっただけ。アベノミクスは失敗だよ」
「そうだろうか。多くが実感できるまではいっていないが、民主党時代よりはいい」
「それは目先の話。もっと先をみれば…」
三年前の二〇一三年四月、日銀の大胆な金融緩和で始まった安倍政権の経済政策。その実績はどうでしょうか。
◆アベノミクスは失敗か
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この数日は波乱含みとはいえ、株価はほぼ二倍になりました。過去最高水準の企業収益だけでなく、失業率は下がり、税収も増えています。借金が増える一方の国の財政ですが「二年続けて赤字国債を減額した」と、安倍晋三首相は始まったばかりの国会で胸を張りました。
その一方で、賃金の伸びは物価上昇に追いつかず、暮らしが上向く気配はありません。ただ暗くはない。少なくとも長いデフレから抜けだそうという強い意欲は感じられます。
アベノミクスをめぐる批判や評価を聞いていると、あるねじれを感じることがあります。景気はよくなってほしい。だけど安倍政権には…というねじれです。
理由は、安倍政権の別の顔にありそうです。悲願の憲法改正に向けて今の憲法を軽視したり、報道に圧力を加えたりする姿勢、強権的な顔です。
違憲の疑いが強い安全保障法制でも、原発の再稼働でも、沖縄の基地問題でも、世論調査などで示される民意は明らかです。でも首相は耳を貸そうとはしません。
◆心配な強権的な顔
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景気がよくなり、暮らしが上向いてホッとしている間に、思わぬところへ行ってしまうのではないか。アベノミクスでデフレ脱却が実現したら、政権はさらに勢いづき、強権的になるのではないか−。そんな板挟みの漠然とした不安があるのでしょう。
国会の論戦が始まった六日朝、NHKの国際ニュースに胸騒ぎがしました。
冷戦終結後、民主主義の国として歩んできたポーランドの最新情勢をフランスの公共放送「F2」が伝えます。
「ポーランドの保守的な新政府はメディアや司法に介入して、より伝統的な国への回帰を目指しており、欧州委員会が懸念しています」
「標的は公共テレビで、議会は実質的に政府の監督下に置く法律を採択。著名なキャスターの番組は、批判的すぎるとすでに打ち切りになりました」
「ある閣僚は先週末、すべて二十五年に及んだリベラリズムの洗脳からの解放が目的だと述べています」−。
昨年、安倍政権は安保法制に批判的なテレビ局やメディアに介入して批判を浴びました。首相は靖国神社参拝は思いとどまっていますが、不戦と人権を柱にした戦後の価値観とは異なる伝統的な価値観への回帰をうかがわせる場面もたびたびです。
経済でも同様です。批判を押し切って年金資金を株価維持のため株式市場に投入したり、民間企業の設備投資や賃上げにも介入しています。
危機の時、政府が経済政策に積極的に介入するのは選択肢のひとつです。ただ、安倍政権の介入は、その狙いにデフレ脱却だけでなく「強い経済、強い国家」を連想させます。二度と繰り返してはいけない戦争のあと、手にした民主主義や平和主義が後戻りしてしまうのではと心配になるのです。
デフレ脱却は必要です。「もう成長はいらない」「少子高齢化の日本に成長は無理だ」と説く人もいます。でも経済の停滞が続くと、誰もが既得権にしがみつく社会になってしまいます。成長も新しいチャンスもないのですから。しわ寄せは持たざるもの、弱者や若者にいきます。
◆若者に活躍の場を
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夏には参院選挙があります。憲法改正も大きなテーマになりそうです。
安倍政権の主導で景気回復するのは…などと板挟みに悩んだり引いたりせず、是々非々で議論を重ねデフレからしっかり脱却する。そして格差の拡大、働く現場の分断に歯止めをかけ、若者の活躍の場を広げなければいけません。
そして昨年に続き、戦後日本の平和主義のあり方が問われる憲法改正問題も堂々と議論し、あるべき姿へと一歩進める。そんな一年にしたいものです。
昨年の暮れ、アベノミクスの評価をめぐって論説室でちょっとした論争がありました。
「株高と円安で大企業がもうかっただけ。アベノミクスは失敗だよ」
「そうだろうか。多くが実感できるまではいっていないが、民主党時代よりはいい」
「それは目先の話。もっと先をみれば…」
三年前の二〇一三年四月、日銀の大胆な金融緩和で始まった安倍政権の経済政策。その実績はどうでしょうか。
◆アベノミクスは失敗か
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この数日は波乱含みとはいえ、株価はほぼ二倍になりました。過去最高水準の企業収益だけでなく、失業率は下がり、税収も増えています。借金が増える一方の国の財政ですが「二年続けて赤字国債を減額した」と、安倍晋三首相は始まったばかりの国会で胸を張りました。
その一方で、賃金の伸びは物価上昇に追いつかず、暮らしが上向く気配はありません。ただ暗くはない。少なくとも長いデフレから抜けだそうという強い意欲は感じられます。
アベノミクスをめぐる批判や評価を聞いていると、あるねじれを感じることがあります。景気はよくなってほしい。だけど安倍政権には…というねじれです。
理由は、安倍政権の別の顔にありそうです。悲願の憲法改正に向けて今の憲法を軽視したり、報道に圧力を加えたりする姿勢、強権的な顔です。
違憲の疑いが強い安全保障法制でも、原発の再稼働でも、沖縄の基地問題でも、世論調査などで示される民意は明らかです。でも首相は耳を貸そうとはしません。
◆心配な強権的な顔
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景気がよくなり、暮らしが上向いてホッとしている間に、思わぬところへ行ってしまうのではないか。アベノミクスでデフレ脱却が実現したら、政権はさらに勢いづき、強権的になるのではないか−。そんな板挟みの漠然とした不安があるのでしょう。
国会の論戦が始まった六日朝、NHKの国際ニュースに胸騒ぎがしました。
冷戦終結後、民主主義の国として歩んできたポーランドの最新情勢をフランスの公共放送「F2」が伝えます。
「ポーランドの保守的な新政府はメディアや司法に介入して、より伝統的な国への回帰を目指しており、欧州委員会が懸念しています」
「標的は公共テレビで、議会は実質的に政府の監督下に置く法律を採択。著名なキャスターの番組は、批判的すぎるとすでに打ち切りになりました」
「ある閣僚は先週末、すべて二十五年に及んだリベラリズムの洗脳からの解放が目的だと述べています」−。
昨年、安倍政権は安保法制に批判的なテレビ局やメディアに介入して批判を浴びました。首相は靖国神社参拝は思いとどまっていますが、不戦と人権を柱にした戦後の価値観とは異なる伝統的な価値観への回帰をうかがわせる場面もたびたびです。
経済でも同様です。批判を押し切って年金資金を株価維持のため株式市場に投入したり、民間企業の設備投資や賃上げにも介入しています。
危機の時、政府が経済政策に積極的に介入するのは選択肢のひとつです。ただ、安倍政権の介入は、その狙いにデフレ脱却だけでなく「強い経済、強い国家」を連想させます。二度と繰り返してはいけない戦争のあと、手にした民主主義や平和主義が後戻りしてしまうのではと心配になるのです。
デフレ脱却は必要です。「もう成長はいらない」「少子高齢化の日本に成長は無理だ」と説く人もいます。でも経済の停滞が続くと、誰もが既得権にしがみつく社会になってしまいます。成長も新しいチャンスもないのですから。しわ寄せは持たざるもの、弱者や若者にいきます。
◆若者に活躍の場を
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夏には参院選挙があります。憲法改正も大きなテーマになりそうです。
安倍政権の主導で景気回復するのは…などと板挟みに悩んだり引いたりせず、是々非々で議論を重ねデフレからしっかり脱却する。そして格差の拡大、働く現場の分断に歯止めをかけ、若者の活躍の場を広げなければいけません。
そして昨年に続き、戦後日本の平和主義のあり方が問われる憲法改正問題も堂々と議論し、あるべき姿へと一歩進める。そんな一年にしたいものです。