貿易や投資など海外との取引状況を表す経常収支は15年、16・6兆円の黒字だった。黒字額は前年から6倍強に急増し、東日本大震災前の水準に戻った。
「黒字は善、赤字は悪」との視点から安心する声が聞かれるが、対外収支はそう単純ではない。例えば、国内が深刻な不況に陥って輸入が減っても黒字は増える。ここは黒字回復の要因を分析し、日本経済の変化を読み取って、とるべき政策へのヒントとすることが大切だ。
浮かび上がるのは、モノの輸出で稼ぐ「製造立国・ニッポン」の退潮がより明確になる一方で、海外への投資や、外国人旅行者受け入れなどのサービスで稼ぐ姿である。黒字の構造は様変わりしている。
輸出入の差を示す貿易収支は0・6兆円余の赤字で、赤字額は前年から一気に10兆円近く減った。ただ、その原動力は原油相場の急落などで輸入額が8・7兆円近く減ったことだ。
輸出は金額では前年比1・5%、1兆円ほど増えたものの、数量指数で見ると1%の減少だった。「円安で競争力が高まり、工場の国内回帰も期待できる。輸出は増える」との期待は依然として根強いが、なかなかその効果が広がらない。
対照的に好調なのは、53年ぶりに赤字を脱して1・1兆円の黒字となった旅行収支だ。日本からの出国者が前年比4%減だったこともあるが、何と言っても日本への外国人旅行者が5割近く増えたのが大きい。
海外からの旅行者も有名観光地の周遊や「爆買い」一辺倒ではない。女性向けの美容院やエステ、地方での食や文化の体験ツアーが人気を集めるなど、私たちがふだん接しているサービスを求める外国人が目につく。
経常黒字全体を支えるのが、海外への直接・証券投資に伴う配当や利子などの所得収支だ。15年は前年比14%増の20・7兆円の黒字で、データを比較できるここ30年余で最大になった。
海外からの投資の受け入れを増やすことが課題だが、海外への投資は長年かけて積み上げてきただけに、景気に左右されながらも一定の受け取りが期待できるだろう。これを、日本経済の「明日の飯の種」作りに生かせるかどうか。
主役は、企業をはじめとする民間である。ためこんだ利益を賃上げや設備更新とともに研究開発へも振り向けてほしい。政府は、時代遅れの業界保護につながる規制を改革し、効果的な予算・税制措置で民間を後押しする。そんな官民の役割分担を改めて確認したい。
「黒字は善、赤字は悪」との視点から安心する声が聞かれるが、対外収支はそう単純ではない。例えば、国内が深刻な不況に陥って輸入が減っても黒字は増える。ここは黒字回復の要因を分析し、日本経済の変化を読み取って、とるべき政策へのヒントとすることが大切だ。
浮かび上がるのは、モノの輸出で稼ぐ「製造立国・ニッポン」の退潮がより明確になる一方で、海外への投資や、外国人旅行者受け入れなどのサービスで稼ぐ姿である。黒字の構造は様変わりしている。
輸出入の差を示す貿易収支は0・6兆円余の赤字で、赤字額は前年から一気に10兆円近く減った。ただ、その原動力は原油相場の急落などで輸入額が8・7兆円近く減ったことだ。
輸出は金額では前年比1・5%、1兆円ほど増えたものの、数量指数で見ると1%の減少だった。「円安で競争力が高まり、工場の国内回帰も期待できる。輸出は増える」との期待は依然として根強いが、なかなかその効果が広がらない。
対照的に好調なのは、53年ぶりに赤字を脱して1・1兆円の黒字となった旅行収支だ。日本からの出国者が前年比4%減だったこともあるが、何と言っても日本への外国人旅行者が5割近く増えたのが大きい。
海外からの旅行者も有名観光地の周遊や「爆買い」一辺倒ではない。女性向けの美容院やエステ、地方での食や文化の体験ツアーが人気を集めるなど、私たちがふだん接しているサービスを求める外国人が目につく。
経常黒字全体を支えるのが、海外への直接・証券投資に伴う配当や利子などの所得収支だ。15年は前年比14%増の20・7兆円の黒字で、データを比較できるここ30年余で最大になった。
海外からの投資の受け入れを増やすことが課題だが、海外への投資は長年かけて積み上げてきただけに、景気に左右されながらも一定の受け取りが期待できるだろう。これを、日本経済の「明日の飯の種」作りに生かせるかどうか。
主役は、企業をはじめとする民間である。ためこんだ利益を賃上げや設備更新とともに研究開発へも振り向けてほしい。政府は、時代遅れの業界保護につながる規制を改革し、効果的な予算・税制措置で民間を後押しする。そんな官民の役割分担を改めて確認したい。