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[朝日新聞] ハンセン病 家族被害に向き合おう (2016年02月22日)

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ハンセン病への差別や偏見に苦しんできた元患者の家族59人が、熊本地裁に集団訴訟を起こした。

国に1人500万円の損害賠償などを求めた裁判は、家族の受けた苦難を明らかにし、誤った隔離政策を続けた国の責任を問う。ハンセン病問題の「残された課題」解決を目指す。

「父のことは、お前の生涯の秘密である」

原告団長の林力さん(91)は、療養所に入所した父から受け取った手紙にそう書かれていたことを覚えている。

国は1907年、法律を制定して患者の隔離政策を始めた。熊本や鹿児島など全国13カ所の国立療養所に強制収容し、堕胎、断種さえ強いた。

感染力が極めて弱く、戦後は薬の普及で完治する病気になった。だが隔離政策は96年の「らい予防法」廃止まで続いた。

働き手の父親が強制収容されれば、家族の生活は困窮を極める。偏見による村八分や結婚差別、就職差別などにさらされ、一家離散した家族もある。

「いつも逃亡者のような気持ちだった。父はつらかっただろうが、家族も苦しんだ」という林団長の言葉が、家族の置かれた状況を象徴している。

深刻なのは、隔離された親を憎んだり、死んだことにしたりして、家族関係が破壊されたことだと弁護団は強調した。

国は、隔離政策の違憲性を認めた熊本地裁判決が2001年に確定したのを受け、元患者に謝罪し、補償を続けている。09年にはハンセン病問題基本法が施行され、国には元患者の名誉回復が義務づけられた。

片や、家族はどうか。

特定の元患者の配偶者への支援金制度などはあるものの、謝罪も被害補償もない。

鳥取地裁で昨年、元患者の子どもの男性が、親とともに差別され苦痛を受けたとして慰謝料などを求めた裁判があった。賠償請求は棄却されたが、地裁は一般論として患者の子らへの偏見や差別があったと指摘した。この判決や、今年3月末で「らい予防法」廃止から20年となり、民法上、損害賠償請求権が消えるとされることが、提訴への後押しをした。

来月第2陣が続き、原告数は150人を超えそうだという。

ただ、今も原告の大半が名前や顔を隠して裁判に臨む。いまだに提訴をためらう人が多い現実も、忘れてはならない。

国が犯した過ちとそれを許したわれわれの社会の人権意識を、この訴訟で語られる家族の苦しみを通して考えたい。

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