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[読売新聞] 認知症事故判決 賠償責任の議論を深めたい (2016年03月02日)

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重度の認知症の高齢者が起こした事故は、誰が責任を負うのか。重い課題はなお残る。

愛知県の認知症の男性が列車にはねられて死亡し、JR東海が振り替え輸送費など約720万円の損害賠償を遺族に求めた訴訟で、最高裁が請求を棄却した。

妻や長男には、男性に対する監督義務がなかった――。最高裁判決は、認知症高齢者を介護する家族らの不安を和らげよう。

当時91歳だった男性は、妻がうたた寝をしている間に外出して徘徊(はいかい)し、駅構内で線路に入った。

民法は、責任能力のない人が第三者に損害を与えた場合、その「監督義務者」が賠償責任を負うと規定している。1審は妻の過失と長男の監督義務を、2審は妻の監督義務をそれぞれ認めた。

最高裁は、配偶者が必ずしも監督義務を負うわけではないと判断した。家族などの監督責任の有無を見極める際は、家族の心身の状況や、当事者との日常的な接触の程度などを総合的に考慮すべきだとの見解も初めて示した。

その上で、要介護認定されていた当時85歳の妻に、夫の監督は現実的に無理だったと結論づけた。20年以上、同居していなかった長男の監督義務も否定している。

民法は、監督義務者が義務を怠らなかった場合は免責されると定めている。認知症の人の関係者は、免責要件に注目していたが、判決は監督責任自体を否定したため、要件は明らかにならなかった。

監督義務者に賠償責任を負わせる規定は、被害者の救済が目的だ。今回のように監督義務者がいない場合は、救済されないのか。どんなケースなら損害の回復が図られるのか。こうした疑問が残る。

裁判官の一人は個別意見で、「賠償義務を負う主体を客観的に決めて、免責の範囲を広げるべきだ」と指摘した。被害者救済と家族の負担軽減の両方に目配りした考え方と言えるのではないか。

現在520万人の認知症高齢者は、2025年には推計700万人に増加する。今回のような事故が頻発する恐れがある。他人を事故に巻き込んだり、火事を起こしたりすることも懸念される。

こうした損害を、鉄道会社などを含む社会全体のコストと捉える考え方もある。責任をどう分担するのか、保険制度の活用などの議論を深めることが肝要である。

独り暮らしの認知症の人も増えよう。在宅介護の重要性が高まる超高齢社会では、地域ぐるみで支える体制の構築が欠かせない。

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