Quantcast
Channel: 新聞社説まとめサイト
Viewing all articles
Browse latest Browse all 17272

[読売新聞] 復興総仕上げへ 再生への歩みを確かなものに (2016年03月11日)

$
0
0
◆将来見据えて事業の見直しを

東日本大震災から5年の節目を迎えた。

死者・行方不明者は計1万8455人に上る。犠牲になった方々の冥福を改めて祈りたい。

政府は、今月末までの5年間を「集中復興期間」と位置づけ、被災地のインフラ復旧や住宅再建を進めてきた。だが、復興への歩みは順調とは言えない。今も約17万人が避難生活を送る。

新年度からは、5年間の「復興・創生期間」に移行する。政府の復興推進会議は10日、その基本方針を決定した。

◆住まいの再建にメド

安倍首相は「希望に満ちあふれた東北を創り上げる」と強調した。復興の総仕上げへ、これまでの取り組みを検証し、被災地の再生に万全を期さねばならない。

復興の大前提は、安定した生活拠点の回復である。

今月末で59%になる復興住宅の完成率は、来年3月には85%にまで上昇する見通しだ。高台などへの集団移転地の造成も、1年後には計画の70%が完了する。遅れていた住宅再建に、ようやく一定のメドがつくと言えよう。

移転先でのコミュニティーの再構築は、今後の重要な課題である。既に入居が始まっている復興住宅の一部では、高齢の住民の孤独死も確認されている。

地元自治体は、仮設住宅で住民同士の交流会開催や入居者の見守り活動に取り組んできた。生活拠点が変わっても被災者が孤立しないよう、支援の充実が必要だ。

震災直後に発足した政府の復興構想会議の議論では、「創造的復興」という理念が強調された。単なる復旧にとどめず、地方再生をリードするような復興を図る、との意味合いだ。

被災地の現状を見ると、その実現には程遠い。復興が停滞する中、地元での生活再建を断念した住民が、次々と流出し、震災前からの過疎化や高齢化に、むしろ拍車がかかっている。被災地が共有する深刻な問題である。

◆人口減を食い止めよう

宮城県女川町では、過去5年間で37%も人口が減少した。東京電力福島第一原発事故で避難指示が出た地域を除けば、被災自治体で最大の減少率だ。平坦(へいたん)な土地が少なく、宅地造成が難航していることが、主な要因と言える。

この町に昨年12月、第3セクターが運営する商業施設が誕生した。JR女川駅の前に遊歩道が設けられ、両側に飲食店や衣料品店などテナント27店舗が並ぶ。

7億円近い整備費のうち、国の補助金が約7割を占める。

現在、休日の午後でも、人通りはさほど多くない。復興の拠点としての役割を果たすには、地元住民だけでなく、観光客も足を運ぶエリアとして、にぎわいを創り出していくことが欠かせない。

仙台市などに転出した若い世代を呼び戻す施策も大切だ。

宮城県石巻市は、通院の医療費を無料にする子供の対象年齢を拡大する。岩手県大槌町などは独身者の結婚をサポートしている。

地元水産業の人手不足を解消するためにも、待遇改善などに知恵を絞りたい。

集中期間中、復興事業費の全額が国費で賄われた。確保された財源は、民主党政権当初の19兆円から、26兆円に膨らんだ。地元の負担がなかったため、効果が精査されないまま、大規模事業が計画されたとの指摘は多い。

巨額の予算を投じて、高い防潮堤を設けても、その近くに住む人がいなければ、無駄になるだろう。住宅が建てられない災害危険区域を守るような形で、防潮堤の整備が進む地域もある。

安倍政権になって、国土強靱(きょうじん)化の名の下に過剰な公共事業が息を吹き返した面は否めない。国費で整備された施設でも、維持管理は地元が担うケースが多い。その費用が財政を圧迫しかねない。

◆福島支援に国を挙げて

新年度からは事業費の一部を自治体が負担する。事業の成果が従来以上に問われよう。効果を見極め、優先度の高い順に財源を配分する姿勢が求められる。既に始まった事業の再点検も進めたい。

高齢者の入居が目立つ復興住宅も、いずれは空き室が増える。介護施設への転用など、活用法を考えておく必要もある。

原発事故の影響が残る福島県の復興のゴールは見通せない。

2020年度までの復興・創生期間が過ぎても、「継続して国が前面に立つ」。福島の復興に関し、政府は今回の基本方針にそう明記している。原発事故の爪痕が消えるまで、国を挙げて福島の人々を支えることを再確認したい。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 17272

Latest Images

Trending Articles