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[日経新聞] 人工知能を生かして日本の活力に (2016年03月21日)

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人工知能(AI)技術の長足の進歩に驚いた人も多いだろう。米グーグル傘下の英企業が開発した人工知能の「アルファ碁」が、世界トップ級のプロ棋士である韓国の李世●(石の下に乙、イ・セドル)九段との対局で4勝1敗と勝ち越した。

これまでもコンピューターがチェスやクイズ番組で人間のチャンピオンを下したことはあったが、囲碁はその奥深さや局面の数の多さゆえに、人の優位があと10年は続くとみられた分野だった。

■「頭脳の限界」を超える

だが、技術の進化は私たちの思い込みをあっさり覆した。脳の神経回路をまねた「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる先端技術を取り入れ、AI同士での対局を繰り返すことで、めきめきと腕を上げた。

時には直感や勘で最適解を選び出す人間的な思考方法や判断力を、機械が身につけ始めたといえるかもしれない。

歴史を振り返ると、かつての産業革命の本質は動力革命で、人類を「筋肉の限界」から解き放った。蒸気の力で機械を動かすことで工業生産が飛躍的に伸び、蒸気船や鉄道の登場で大量の物資を安く遠くに運ぶことが可能になった。

これと対比すると、今起きているのは「頭脳の限界」からの解放だという指摘もある。これまで人間だけが行ってきた認知や判断、推論などの頭脳労働を機械が支援したり、代替したりすることが広い領域で可能になり始めた。

こうした技術革新の波は社会に様々な恩恵をもたらす。富士重工業が先導した車の自動ブレーキは周囲の車両や歩行者をカメラで検知し、危ないと判断すれば運転手に代わって機械がブレーキを踏む。そうした仕組みで交通事故が6割減った。

画像診断にAIを活用すれば、医師が見逃しかねない微細な病気の兆候を高い確度で発見できるだろう。人の集まる駅や競技場で監視カメラを通じて怪しい動きをする人を特定し、テロなどの防止に役立てるシステムは各地で導入が広がっている。

自動翻訳の技術が進むと、電話のこちら側で日本語を話せば、向こうでは自動的に英語に訳されて、外国人とストレスなく会話できる時代が来るかもしれない。

AIやコンピューターの進化はより良い社会や生活を実現するための推進力であり、日本としても官民挙げて進めなければならない大きなテーマだ。

そこで重要なのがソフトウエア関連の技術力を磨くことだ。日本企業はものづくりに強みを発揮する一方で、ソフトやアルゴリズム(計算手法)の分野では存在感が薄いのが気がかりだ。

自前の人材育成に時間がかかるのであれば、トヨタ自動車やリクルートのように米シリコンバレーに研究拠点を設け、米国のトップ級の人材を招き入れるのも一案だ。政府や大学もこの分野の人材育成に力を入れる必要がある。

自社以外の企業や大学、研究機関と柔軟に連携する「オープン・イノベーション」も重要だ。たとえば医療分野でのAI活用を進めるには、医学とコンピューターという異なる領域の「知」を結合しないといけない。手持ちの技術や人材だけに頼る自前主義では、ブレークスルーはおぼつかない。

■人と機械の協業を

社会にとっても、AIやロボットに代表される新技術とどう向き合うかは大きな課題だ。革新のスピードが速く、社会がめまぐるしく変化する時代は、人々の不安が高まる時代でもある。

野村総合研究所は昨年12月、10?20年先には今ある仕事の49%がAIやロボットで代替できるようになる、との調査結果を発表。各方面に衝撃を広げた。

一方で労働人口が減る日本にとって、人を補助するロボットなどの進化は経済にとってプラスという見方もある。

機械と人が「仕事」をめぐって争うのではなく、互いに協業して価値を生み出す社会をめざしたい。介護サービスでは力仕事をロボットが担い、心の触れ合いは人間が引き受ける。そんな役割分担が社会の様々な分野で進むのが望ましい姿である。

新しい技術と法規制や人間固有の倫理観をどう調和させるかについても、議論を深めるときだ。

「完全自動運転車の事故に責任を負うのは誰か」「意識や心を持ったロボットをつくってもいいのか」。すぐには答えの出ない問題も多いが、こうした課題も見据えながら技術の進歩を正面から受け止め、それをうまく生かすことで、新たな未来を開きたい。

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