住民一人一人に番号を割り当てる「マイナンバー制度」に絡んだ汚職事件が発覚した。逮捕されたのは厚生労働省の職員だ。巨額な“IT箱もの”事業にうずまく利権の構造を深くえぐってほしい。
「企画競争入札」と呼ばれる方法で入札は行われた。厚労省側の仕様書に参加業者の計画書がいかに沿っているかを点数化して評価する手法である。
驚くべきことに、逮捕された同省情報政策担当参事官室の室長補佐、中安一幸容疑者は本来、国が作るべき仕様書の原案をひそかに贈賄側業者に作らせる便宜を図ったという。これでは受験生にテスト問題を用意させ、試験をするのと同じだ。企画競争入札方式の効果をなくしてしまう。
容疑となったのは、二〇一一年のマイナンバー制度の準備段階として同省が発注した事業である。同制度を導入する前段階で、年金や健康保険などの社会保障制度の情報連携を推進するためのシステム設計と、そのシミュレーションを行う内容だった。
この二件で計約二億一千万円の事業費だったが、贈賄側はそれ以後も医療保険へのマイナンバー導入支援の調査研究などとして総額約十二億二千万円を受注していた。中安容疑者への金銭贈与は数百万円にのぼった疑いもあり、警視庁は徹底して解明してほしい。
問題は厚労省にもある。中安容疑者は〇五年以降はIT(情報技術)に精通した専門家としてずっと情報政策部門に籍を置いた。マイナンバー制度が専門的な知識を持つ一部の役人に委ねられ、チェック機能が働かなかったのだから、組織的な病理ともいえる。
同制度は赤ちゃんからお年寄りまで住民に十二桁の番号を割り当てて、税と社会保障、災害関連などの情報を結びつける。初期投資だけで約三千億円、ランニングコストはその20%といわれ、毎年数百億円もの税金を投じる巨大な国家プロジェクトだ。
厚労省ばかりでなく、税務当局や各自治体など幅広い役所が関係する。民間事業者でも情報システムの構築などの費用負担が必要なため、市場規模は一兆円ともいわれる。
今回の事件は、官民癒着の氷山の一角かもしれない。特需に沸く業界全体を視野に入れた捜査が強く望まれる。
情報漏えいやなりすまし犯罪なども予想される仕組みだ。国民への浸透も足りない中で、来年一月からの運用開始を懸念する。
「企画競争入札」と呼ばれる方法で入札は行われた。厚労省側の仕様書に参加業者の計画書がいかに沿っているかを点数化して評価する手法である。
驚くべきことに、逮捕された同省情報政策担当参事官室の室長補佐、中安一幸容疑者は本来、国が作るべき仕様書の原案をひそかに贈賄側業者に作らせる便宜を図ったという。これでは受験生にテスト問題を用意させ、試験をするのと同じだ。企画競争入札方式の効果をなくしてしまう。
容疑となったのは、二〇一一年のマイナンバー制度の準備段階として同省が発注した事業である。同制度を導入する前段階で、年金や健康保険などの社会保障制度の情報連携を推進するためのシステム設計と、そのシミュレーションを行う内容だった。
この二件で計約二億一千万円の事業費だったが、贈賄側はそれ以後も医療保険へのマイナンバー導入支援の調査研究などとして総額約十二億二千万円を受注していた。中安容疑者への金銭贈与は数百万円にのぼった疑いもあり、警視庁は徹底して解明してほしい。
問題は厚労省にもある。中安容疑者は〇五年以降はIT(情報技術)に精通した専門家としてずっと情報政策部門に籍を置いた。マイナンバー制度が専門的な知識を持つ一部の役人に委ねられ、チェック機能が働かなかったのだから、組織的な病理ともいえる。
同制度は赤ちゃんからお年寄りまで住民に十二桁の番号を割り当てて、税と社会保障、災害関連などの情報を結びつける。初期投資だけで約三千億円、ランニングコストはその20%といわれ、毎年数百億円もの税金を投じる巨大な国家プロジェクトだ。
厚労省ばかりでなく、税務当局や各自治体など幅広い役所が関係する。民間事業者でも情報システムの構築などの費用負担が必要なため、市場規模は一兆円ともいわれる。
今回の事件は、官民癒着の氷山の一角かもしれない。特需に沸く業界全体を視野に入れた捜査が強く望まれる。
情報漏えいやなりすまし犯罪なども予想される仕組みだ。国民への浸透も足りない中で、来年一月からの運用開始を懸念する。