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[東京新聞] ペルー新大統領 フジモリ政治を越えて (2016年06月15日)

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元大統領である父親の影に足を引っ張られた思いだろう。ペルー大統領選で再び涙をのんだ日系三世のケイコ・フジモリ氏だ。国民は「フジモリ政治」を越えて、前に進もうという意思を示した。

選挙の争点はフジモリ政治の是非だった。決選投票を制したクチンスキ元首相は、ケイコ氏が当選すれば父親アルベルト氏と同じ強権政治へ逆戻りすると訴えた。

一九九〇年から十年間、政権を担ったアルベルト氏は、経済立て直しと左派ゲリラ鎮圧で手腕を発揮した。九六年に起きた日本大使公邸人質事件では陣頭指揮に立ち、人質解放に導いた。

半面、議会解散、憲法停止という強権を振るい、功罪半ばする。アルベルト氏は在任中の人権侵害事件で禁錮二十五年の実刑判決を受けて服役中だ。

ケイコ氏は父と決別するイメージづくりに腐心した。父親の恩赦は求めない意向を示し、民主主義、言論の自由、人権を尊重すると表明した。だが、都市部を中心に反フジモリ感情は根強かった。

国論を二分した選挙だっただけに、クチンスキ氏には国民融和が大きな課題になる。八〇年に軍政から民政に移管して三十六年。民主化は道半ばだ。その進展を期待したい。

決選投票が中道右派同士の対決となったことは、南米で台頭著しかった左派勢力の退潮を象徴する。アルゼンチンでは昨年末に中道右派政権へ交代した。南米左派の本家ともいうべきベネズエラは経済苦境にあえぐ。

銅や亜鉛などの鉱物資源に恵まれるペルーは、中国経済の減速や鉱物価格下落のあおりを受けたものの、中南米では比較的堅調な経済成長を遂げている。二〇〇五年には国民の半数以上が貧困層だったのが、一五年には20%余りまで減った。

ところが、経済成長の中で貧富の格差も広がった。

その象徴が、首都リマにある「恥の壁」と呼ばれるコンクリート壁だ。高さ約三メートルの壁は全長約十キロに達する。防犯対策として富裕層と貧困層が住む地域を分断している。

クチンスキ氏は世界銀行に勤務したことのある経済通だ。こんな壁を必要としない社会づくりにも取り組んでほしい。

日本は中南米諸国では初めて、一八七三年にペルーと国交を結んだ。日系人も推計で約十万人いる。日本はこの親日国への支援を惜しむべきではない。

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