京都議定書に代わる二〇二〇年からの温暖化対策ルール、「パリ協定」が難産の末採択された。さあ、世界共通の舞台はできた。本番は、これからだ。
COP21の開会直前、国連世界気象機関(WMO)は、今年は世界の平均気温が過去最高になり、来年はさらに上昇するとの見通しを公表した。
今年一月から十月までの地上の平均気温は、産業革命以前の一八八〇年から九九年の平均よりも、すでに一度高いという。
会議最終日になるはずだった十一日、日本には台風並みの低気圧が接近し、何かを暗示するように“真冬の嵐”が吹き荒れた。
その日三重県では、史上初めて、十二月の「夏日」を記録した。
◆異変はもう起きている
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事ここに至ればもう誰も、気象異変を疑うまい。そして、その要因が人間の営みにあることも。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告は、地球の平均気温は二一〇〇年までに最大五・四度上昇すると、警告を発している。
それをひとまず二度まで抑えよう、抑えなければならないという、国際社会の合意はすでにできていた。「二度以上」の世界で、人はまともに生きられない。
殺人的な熱波や干ばつ、洪水や感染症の被害がまん延する社会になる。欧米などの先進国も、例外ではあり得ない。
それもすでに始まっている。
米フロリダ半島沿岸にあるケネディ宇宙センター。スペースシャトル打ち上げの舞台になった最新の科学の拠点が、温暖化による海面上昇で、水没の危機にある。
仏ボルドーでは今年、ブドウの収穫が例年より半月以上早まった。温暖化がこのまま進めば、世界の主要産地の最大約七割が、ワイン造りに適さなくなるという。
私たちはすでに、歴史的な常識が通用しない世界に足を踏み入れていた。
◆米中がリードした
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米国は世界第二位の温室効果ガス排出国。欧州連合(EU)は第三の排出地域である。
世界一の排出国、中国の首都北京には七日、最悪の大気汚染を表す「赤色警報」が発令された。
目に見える黄色い大気汚染とともに、目には見えない温室効果ガスの脅威が忍び寄る。このままではいけないと、米国も中国も、先進国も途上国も、共通だが差異ある不安を感じていたに違いない。
だからこそ、条約に参加する百九十六カ国・地域のほとんどが、温室効果ガスの削減目標を携えて会議に臨んでいたのである。
南北共通の危機感を背景に、パリ協定は何とか採択された。京都議定書は先進国だけに対策義務を課していた。温暖化という共通の課題に向けて、五年後に、世界は初めて同じ舞台に立つ。
パリ会議は歴史的な成果を挙げたと言えるだろう。
気温上昇二度未満、できれば一・五度に抑えるという当面のゴールをめざし、国連に提示した自主目標の達成に、それぞれ挑む。「今世紀後半までに温室効果ガス排出ゼロ」も盛り込んだ。
だが、とりあえず舞台ができただけである。本番はこれからだ。
自主目標がすべて達成されたとしても、二一〇〇年までに、地球の気温は三度近くも上がると言われている。各国の“野心”を早く大きく引き上げないと、人類の未来はひらけない。
パリ会議はもう一つ、大きな変化を国際社会に実感させた。
旧来の交渉では、石油や石炭の消費を抑制されるのは、“損”だと考えられてきた。
ところが今や、風力や太陽光など再生可能エネルギーの価格が大きく下がり、早く再エネに切り替えて脱炭素社会を築いた方が、経済的にも“得”になるという考え方が主流になってきた。
各国の自主目標にも、それが反映されている。
その点日本は対応が鈍すぎる。
会議に参加した国際環境NGOの間では、パリ会議における日本の存在感は“薄い”ではなく“ない”との評価も聞こえてきた。
先進国の責任を厳しく追及し、交渉の進展を阻んだインドさえ、自主目標を達成するため、水力を含む「非化石エネルギー」の割合を発電量の四割に増やすという。
◆再エネの風に乗らねば
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石炭火力や原発に執着し、再生エネ導入に消極的な日本は、世界から温暖化にも後ろ向き、危機感の薄い国だと見られている。
平均気温が四度上がると、東京、大阪、名古屋だけでも千七百万人以上の居住地域が、海面下に沈むという研究成果もある。
時代は変わった。
脱化石燃料、再エネ導入の流れにまず乗らないと、日本はスタートダッシュで出遅れる。
COP21の開会直前、国連世界気象機関(WMO)は、今年は世界の平均気温が過去最高になり、来年はさらに上昇するとの見通しを公表した。
今年一月から十月までの地上の平均気温は、産業革命以前の一八八〇年から九九年の平均よりも、すでに一度高いという。
会議最終日になるはずだった十一日、日本には台風並みの低気圧が接近し、何かを暗示するように“真冬の嵐”が吹き荒れた。
その日三重県では、史上初めて、十二月の「夏日」を記録した。
◆異変はもう起きている
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事ここに至ればもう誰も、気象異変を疑うまい。そして、その要因が人間の営みにあることも。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告は、地球の平均気温は二一〇〇年までに最大五・四度上昇すると、警告を発している。
それをひとまず二度まで抑えよう、抑えなければならないという、国際社会の合意はすでにできていた。「二度以上」の世界で、人はまともに生きられない。
殺人的な熱波や干ばつ、洪水や感染症の被害がまん延する社会になる。欧米などの先進国も、例外ではあり得ない。
それもすでに始まっている。
米フロリダ半島沿岸にあるケネディ宇宙センター。スペースシャトル打ち上げの舞台になった最新の科学の拠点が、温暖化による海面上昇で、水没の危機にある。
仏ボルドーでは今年、ブドウの収穫が例年より半月以上早まった。温暖化がこのまま進めば、世界の主要産地の最大約七割が、ワイン造りに適さなくなるという。
私たちはすでに、歴史的な常識が通用しない世界に足を踏み入れていた。
◆米中がリードした
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米国は世界第二位の温室効果ガス排出国。欧州連合(EU)は第三の排出地域である。
世界一の排出国、中国の首都北京には七日、最悪の大気汚染を表す「赤色警報」が発令された。
目に見える黄色い大気汚染とともに、目には見えない温室効果ガスの脅威が忍び寄る。このままではいけないと、米国も中国も、先進国も途上国も、共通だが差異ある不安を感じていたに違いない。
だからこそ、条約に参加する百九十六カ国・地域のほとんどが、温室効果ガスの削減目標を携えて会議に臨んでいたのである。
南北共通の危機感を背景に、パリ協定は何とか採択された。京都議定書は先進国だけに対策義務を課していた。温暖化という共通の課題に向けて、五年後に、世界は初めて同じ舞台に立つ。
パリ会議は歴史的な成果を挙げたと言えるだろう。
気温上昇二度未満、できれば一・五度に抑えるという当面のゴールをめざし、国連に提示した自主目標の達成に、それぞれ挑む。「今世紀後半までに温室効果ガス排出ゼロ」も盛り込んだ。
だが、とりあえず舞台ができただけである。本番はこれからだ。
自主目標がすべて達成されたとしても、二一〇〇年までに、地球の気温は三度近くも上がると言われている。各国の“野心”を早く大きく引き上げないと、人類の未来はひらけない。
パリ会議はもう一つ、大きな変化を国際社会に実感させた。
旧来の交渉では、石油や石炭の消費を抑制されるのは、“損”だと考えられてきた。
ところが今や、風力や太陽光など再生可能エネルギーの価格が大きく下がり、早く再エネに切り替えて脱炭素社会を築いた方が、経済的にも“得”になるという考え方が主流になってきた。
各国の自主目標にも、それが反映されている。
その点日本は対応が鈍すぎる。
会議に参加した国際環境NGOの間では、パリ会議における日本の存在感は“薄い”ではなく“ない”との評価も聞こえてきた。
先進国の責任を厳しく追及し、交渉の進展を阻んだインドさえ、自主目標を達成するため、水力を含む「非化石エネルギー」の割合を発電量の四割に増やすという。
◆再エネの風に乗らねば
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石炭火力や原発に執着し、再生エネ導入に消極的な日本は、世界から温暖化にも後ろ向き、危機感の薄い国だと見られている。
平均気温が四度上がると、東京、大阪、名古屋だけでも千七百万人以上の居住地域が、海面下に沈むという研究成果もある。
時代は変わった。
脱化石燃料、再エネ導入の流れにまず乗らないと、日本はスタートダッシュで出遅れる。