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[日経新聞] 縦割り排し社会保障・税一体改革を (2015年12月25日)

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政府が2016年度予算案を決めた。予算総額は96兆7千億円程度と過去最高を更新した。

税収増を見込み、新規国債発行額を抑える結果、借金で歳出をどれくらい賄うかを示す国債依存度は35.6%まで下がる。

日本の借金残高は国内総生産(GDP)の2倍を超え、財政は先進国で最悪の状態にある。単年度の財政赤字を前年度より小さくしたのは前進だが、財政健全化の道筋が整ったとはいえない。

世代間の不均衡是正を

財政赤字の主因は、高齢化に伴う医療や年金、介護といった社会保障費の増加だ。16年度は前年度比の増加額を4400億円強にとどめた点はひとまず評価できるものの、歳出は切り込み不足だ。

医療の公定価格である診療報酬は8年ぶりに引き下げられる。しかし、診療報酬のうち、医師、歯科医師、薬剤師の技術料部分、いわゆる本体は引き上げられた。

診療所の収益は増えているのに本体部分をプラス改定したのは、来年の参院選を意識して医師会などに配慮した結果と疑わざるを得ない。

地方財政も、国からの自立を促す改革を素通りしている。

政府は国と地方をあわせた基礎的財政収支を20年度に黒字にする目標を掲げている。

金融市場で日本の国債への信認が疑われると長期金利が上昇し、事実上の財政破綻につながるリスクが高まる。経済成長を確保しつつ堅実な財政運営が求められるのは、この心配をなくすためだ。

社会保障費を賄う安定財源としての消費税はいずれ10%を超えて上げる必要があるだろう。ただ、社会保障費の膨張に歯止めをかけなければ、際限のない増税を強いられかねない。だからこそ社会保障制度の効率化は急務となる。

こうした観点からみると、16年度予算案は及第点に達しない内容だ。3つ問題がある。第1は所得や資産にゆとりのある高齢者に負担を求める改革に踏み込んでいないことだ。

医療では、70歳以上の高齢者の窓口自己負担が原則1?2割にとどまり、現役世代の3割より低く抑えられたままだ。

年金では、受給者が現役世代の所得控除より手厚い税制優遇措置を受けている。そのうえ高所得の年金受給者についても、基礎年金の半分に税金が投じられている。

所得や資産が比較的豊かな高齢者にも優遇措置を続ければ、世代間の給付と負担の不均衡はいっこうに是正されない。今回も痛みを伴う改革を先送りし、この点では「決められない政治」が続いた。

第2は子ども・子育て支援だ。幼児教育無償化の対象を広げたりひとり親家庭に配る児童扶養手当を増やしたりするのは妥当だ。

しかし、安倍晋三政権が合計特殊出生率をいまの1.4台から1.8に上げる目標を掲げている割には小粒な内容だ。

少子化への対応は息の長い取り組みが要る。そのためには高齢者向けの歳出を抑え、浮いた財源を思い切って子ども・子育て支援に振り向ける、といった歳出の抜本的な組み替えが必要だ。今回の予算案はその難題を避けた。

15年度補正予算案では低所得者のうち年金受給者だけを対象に給付金を大盤振る舞いする。高齢の有権者が増えるほど、高齢者を優遇する政策がまかり通る「シルバー民主主義」の弊害は目に余る。

勤労税額控除も一案

第3に、真に支援が必要な低所得者向けの対策だ。17年4月の10%への消費増税時には軽減税率を導入することが決まった。

それでも、国民年金や国民健康保険(国保)といった社会保険では、税以上に低所得者の負担が相対的に重い「逆進性」の問題が残っている。

改善策として例えば、税と社会保障の共通番号(マイナンバー)を使い、勤労税額控除のようなしくみを導入するのは一案だ。

働いても所得が低い間は社会保険料負担を減免し、手取りの所得を増やせるような誘因策はあっていい。働く意欲を持つ人々を下支えする施策は、生活保護の改革などとあわせ安全網を再構築するうえで重要になる。

日本では、税は自民党税制調査会と財務省、社会保険は厚生労働省と縦割りでバラバラに制度設計をしてきた結果、効率性や効果に乏しい制度を温存してきた。

社会保障制度を持続可能にするとともに、財政健全化の道筋を固める。そのためには社会保障制度と税制を一体的に抜本改革する必要がある。安倍政権はその課題から逃げてはいけない。

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