日本と韓国の関係が「戦後最悪」といわれるほど冷え込んだ最大の要因は、旧日本軍の従軍慰安婦問題をめぐる対立だった。その障害がようやく取り除かれる見通しとなった。日韓関係の再構築に向けた弾みとしたい。
岸田文雄外相と尹炳世(ユン・ビョンセ)外相がソウルで会談し、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的」に解決することで合意した。具体的には韓国政府が元慰安婦を支援するための財団を設立し、日本政府が約10億円を政府予算から一括拠出することになった。
韓国は世論対策万全に
日本政府は「責任を痛感」し、安倍晋三首相は元慰安婦に「心からのおわびと反省の気持ち」を表明する。さらに両国は国際社会でこの問題をめぐる非難を控えることを確認。韓国側はソウルの日本大使館前に設置された慰安婦を象徴する「少女像」について、「関連団体との協議を通じて適切に解決するよう努力する」とした。
日本政府は慰安婦問題を含めた戦後の賠償問題について、1965年の日韓国交正常化の際に結んだ請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」との立場を貫く。今回もその原則は堅持しつつ、心身に深い傷を負った元慰安婦への人道的な配慮から政府予算による拠出を決めたようだ。
韓国政府も日本が求めた「最終的解決」に同意し、「少女像」の大使館前からの撤去にも主体的に取り組む姿勢を示した。双方の譲歩が妥結につながったといえる。
90年代から外交的な懸案として浮上した慰安婦問題はたびたび、日韓の関係改善を妨げてきた。
近年では2011年、韓国の憲法裁判所がこの問題で日本と交渉しない韓国政府の「不作為」を違憲と判断。当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が日本に強硬に解決を迫るようになり、進展がままならないなか、業を煮やして日韓双方が領有権を主張する竹島(韓国名は独島)に上陸した。
朴槿恵(パク・クネ)政権発足後も、韓国は慰安婦問題決着を首脳会談の事実上の前提条件とし、日韓首脳会談が3年半も開かれないという異常な状態が続いた。
この間、日本側の対応にも原因がなかったわけではない。典型例は安倍政権が、旧日本軍の関与を認め謝罪した「河野談話」を再検証したことだ。韓国はこれを談話の否定と受け止め、相互不信を一層深めた。さらに慰安婦問題を女性の人権問題ととらえる欧米の疑心も呼び、日本への不信が国際的に広がる要因ともなっていた。
今回の合意には日韓双方に不満の声も出るだろう。だが、ようやく達成した合意である。過去の苦い教訓も踏まえつつ、日韓が着実に履行することが肝要だ。
とくに韓国政府には世論対策を含めた真摯な対応を求めたい。過去に日本側が実施したアジア女性基金を通じた償い事業は、元慰安婦を支援する市民団体らの抵抗に遭い、韓国で十分な成果を上げられなかった経緯があるからだ。
日本大使館前の「少女像」もその市民団体が設置した。朴政権は責任をもって、世論や市民団体を粘り強く説得してもらいたい。
日韓の間ではここにきて、関係改善への機運がようやく広がりつつある。韓国の憲法裁が先に、日韓の請求権協定を違憲とする訴えを却下したのはその一例だ。
安保協力は待ったなし
もちろん、慰安婦問題の決着で歴史をめぐる対立が解消したわけではない。竹島の領有権問題、歴史教科書をめぐる対立は根深く、戦時中に日本企業に徴用された韓国人への損害賠償を求める訴訟も韓国で相次いでいる。
大切なことはこうした歴史問題のあつれきを最小限に抑えつつ、未来に向けた協力や連携を地道に重ねていくことだ。
日韓は距離的に近い隣国同士だ。互いに主要な貿易相手国でもある。日米が主導して合意した環太平洋経済連携協定(TPP)には、韓国も参加に意欲を示している。アジア太平洋に新たな通商の枠組みを定着させるうえでも、互いに協力する余地は大きい。
安全保障面でも、ともに米国の同盟国として北朝鮮の核兵器やミサイル開発、中国の海洋進出など北東アジアを揺さぶる脅威に共同で対処していく必要がある。とくに北朝鮮情勢をめぐる情報共有を密にするため、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)などの締結を急ぎたい。
今年は日韓国交正常化50年の節目の年だ。慰安婦問題の決着はその一年の締めくくりにふさわしい出来事となった。新たな50年に向け、一歩ずつ前に踏み出したい。
岸田文雄外相と尹炳世(ユン・ビョンセ)外相がソウルで会談し、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的」に解決することで合意した。具体的には韓国政府が元慰安婦を支援するための財団を設立し、日本政府が約10億円を政府予算から一括拠出することになった。
韓国は世論対策万全に
日本政府は「責任を痛感」し、安倍晋三首相は元慰安婦に「心からのおわびと反省の気持ち」を表明する。さらに両国は国際社会でこの問題をめぐる非難を控えることを確認。韓国側はソウルの日本大使館前に設置された慰安婦を象徴する「少女像」について、「関連団体との協議を通じて適切に解決するよう努力する」とした。
日本政府は慰安婦問題を含めた戦後の賠償問題について、1965年の日韓国交正常化の際に結んだ請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」との立場を貫く。今回もその原則は堅持しつつ、心身に深い傷を負った元慰安婦への人道的な配慮から政府予算による拠出を決めたようだ。
韓国政府も日本が求めた「最終的解決」に同意し、「少女像」の大使館前からの撤去にも主体的に取り組む姿勢を示した。双方の譲歩が妥結につながったといえる。
90年代から外交的な懸案として浮上した慰安婦問題はたびたび、日韓の関係改善を妨げてきた。
近年では2011年、韓国の憲法裁判所がこの問題で日本と交渉しない韓国政府の「不作為」を違憲と判断。当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が日本に強硬に解決を迫るようになり、進展がままならないなか、業を煮やして日韓双方が領有権を主張する竹島(韓国名は独島)に上陸した。
朴槿恵(パク・クネ)政権発足後も、韓国は慰安婦問題決着を首脳会談の事実上の前提条件とし、日韓首脳会談が3年半も開かれないという異常な状態が続いた。
この間、日本側の対応にも原因がなかったわけではない。典型例は安倍政権が、旧日本軍の関与を認め謝罪した「河野談話」を再検証したことだ。韓国はこれを談話の否定と受け止め、相互不信を一層深めた。さらに慰安婦問題を女性の人権問題ととらえる欧米の疑心も呼び、日本への不信が国際的に広がる要因ともなっていた。
今回の合意には日韓双方に不満の声も出るだろう。だが、ようやく達成した合意である。過去の苦い教訓も踏まえつつ、日韓が着実に履行することが肝要だ。
とくに韓国政府には世論対策を含めた真摯な対応を求めたい。過去に日本側が実施したアジア女性基金を通じた償い事業は、元慰安婦を支援する市民団体らの抵抗に遭い、韓国で十分な成果を上げられなかった経緯があるからだ。
日本大使館前の「少女像」もその市民団体が設置した。朴政権は責任をもって、世論や市民団体を粘り強く説得してもらいたい。
日韓の間ではここにきて、関係改善への機運がようやく広がりつつある。韓国の憲法裁が先に、日韓の請求権協定を違憲とする訴えを却下したのはその一例だ。
安保協力は待ったなし
もちろん、慰安婦問題の決着で歴史をめぐる対立が解消したわけではない。竹島の領有権問題、歴史教科書をめぐる対立は根深く、戦時中に日本企業に徴用された韓国人への損害賠償を求める訴訟も韓国で相次いでいる。
大切なことはこうした歴史問題のあつれきを最小限に抑えつつ、未来に向けた協力や連携を地道に重ねていくことだ。
日韓は距離的に近い隣国同士だ。互いに主要な貿易相手国でもある。日米が主導して合意した環太平洋経済連携協定(TPP)には、韓国も参加に意欲を示している。アジア太平洋に新たな通商の枠組みを定着させるうえでも、互いに協力する余地は大きい。
安全保障面でも、ともに米国の同盟国として北朝鮮の核兵器やミサイル開発、中国の海洋進出など北東アジアを揺さぶる脅威に共同で対処していく必要がある。とくに北朝鮮情勢をめぐる情報共有を密にするため、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)などの締結を急ぎたい。
今年は日韓国交正常化50年の節目の年だ。慰安婦問題の決着はその一年の締めくくりにふさわしい出来事となった。新たな50年に向け、一歩ずつ前に踏み出したい。