台湾総統選で野党民進党の蔡英文主席が当選し三度目の政権交代が実現する。中国は台湾住民の選択を尊重し、平和を保つため対話を続けてほしい。
「台湾人は選挙を通じて歴史をつくった」。台湾初の女性総統になる蔡氏は当選を決めた後、支持者らに力強く宣言した。
確かに、この選挙は台湾が民意によって安定的に政権交代する社会であることを国際社会に示したといえる。台湾の有権者が投票を通じ自らの未来を選び取ることができる選挙制度を大切に育ててきたことは、台湾での民主主義の成熟として高く評価したい。
台湾では一九九六年に李登輝氏が初の民選総統に選ばれた。二〇〇〇年に民進党の陳水扁氏が総統に当選し国民党一党支配に終止符を打ったが、〇八年の総統選では国民党の馬英九氏が八年ぶりに政権を奪回。今回は民進党が三度目となる政権交代を実現させた。
◆台湾民主の成熟示す
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十九世紀末以降の台湾は苦難の道を歩んだ。日清戦争により日本の植民地とされた台湾は日本敗戦後、国民党が率いる中華民国の支配下に入った。国民党が共産党との内戦に敗れ大陸から撤退した後も、八七年に戒厳令が解除されるまで、台湾人は民主とはほど遠い息苦しい生活を強いられた。
八八年の〓経国総統の死後、副総統だった李氏が憲法改正による初の総統直接選挙で民選総統に就任し、本格的に民主化を進めた。
それだけに、経済大国にはなったものの強権政治が目立つ大陸中国にのみ込まれず、自由で平等な民主社会を守ろうとする台湾の人たちの選択を、国際社会は温かく見守るべきであろう。
中国は八〇年代に模索した政治改革を進めず一党独裁が続く。同じ中華民族の台湾は、権力者の統治より民に重きを置く「三民主義」を掲げた国父・孫文の理想を現実社会で実現したと評価できる。
中国が「一国二制度」で統治する香港で、行政長官選の民主化を求めて学生らが起こした「雨傘運動」の記憶は、今も鮮烈である。
中国は安定団結を最優先にし、政治改革に踏み込む様子はみせていない。だが、香港や台湾を含む中華社会で若者を中心にわき起こった民主化を求める動きに、いつまでも目を背けることは許されないだろう。
◆“あいまい戦略”の知恵
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「台湾独立」を党綱領に掲げる民進党の蔡氏が当選した最大の理由は、将来の中台関係で台湾民衆に安心感を与えたことであろう。中台双方が「一つの中国」で一致したとする「九二年合意」について、民進党は合意を認めていないが、蔡氏は選挙中に「独立色」を極力抑制し中台関係の「現状維持」策を強く打ち出した。
昨年十一月、中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統が会談し「九二年合意」の堅持を確認した。習主席が政権交代を見越してか「合意の核心的内容を認めれば交流したい」と、合意の文言にこだわらない柔軟姿勢を示していたことにも注目したい。
台湾では八割近い人たちが政治的な現状維持を求めており、主権にかかわる最大の難問に、蔡氏が「現状維持」で対応したのは“あいまい戦略”とも言える現実的な知恵であったといえる。
課題は今後の対応である。蔡氏は「挑発せず、予想外のことをせず、対等な交流の道を探る」と述べたが、中国は「いかなる形の台湾独立運動にも断固反対する」とけん制した。「台湾独立」の党綱領と選挙で訴えた「現状維持」策の折り合いをどうつけ、平和で安定的な関係を築けるか政治手腕が問われる。もしも「独立」に傾けば危険なことは言うまでもない。
◆「ホットライン」続けて
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選挙期間中に台北市内を歩き、台湾民衆は中国の統一攻勢や中国が台湾の政治に干渉することには警戒感を隠せないが、何よりも安定的な中台関係による経済発展を望んでいることを感じた。
中台間では自由貿易協定にあたる「経済協力枠組み協定」が結ばれ、「台商」という大陸の台湾商人は家族を含め百万人を超える。経済的な結びつきは極めて強い。
中国は台湾独立の動きに警戒感を示しているが、台湾の新指導者と誠実に向き合ってほしい。政権交代があっても、習・馬会談で合意した閣僚級ホットラインによる対話を続け、相互不信の芽を取り除く努力が欠かせない。
台湾海峡はかつて、初の総統選を威嚇する中国のミサイル演習で極度に緊張が高まった世界の発火点の一つである。日本を含む国際社会には、海峡の平和と安定こそ共通の利益ととらえ、中国と台湾の新たな対話を見守り、あと押しする姿勢が必要であろう。
※〓は、くさかんむりに將
「台湾人は選挙を通じて歴史をつくった」。台湾初の女性総統になる蔡氏は当選を決めた後、支持者らに力強く宣言した。
確かに、この選挙は台湾が民意によって安定的に政権交代する社会であることを国際社会に示したといえる。台湾の有権者が投票を通じ自らの未来を選び取ることができる選挙制度を大切に育ててきたことは、台湾での民主主義の成熟として高く評価したい。
台湾では一九九六年に李登輝氏が初の民選総統に選ばれた。二〇〇〇年に民進党の陳水扁氏が総統に当選し国民党一党支配に終止符を打ったが、〇八年の総統選では国民党の馬英九氏が八年ぶりに政権を奪回。今回は民進党が三度目となる政権交代を実現させた。
◆台湾民主の成熟示す
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十九世紀末以降の台湾は苦難の道を歩んだ。日清戦争により日本の植民地とされた台湾は日本敗戦後、国民党が率いる中華民国の支配下に入った。国民党が共産党との内戦に敗れ大陸から撤退した後も、八七年に戒厳令が解除されるまで、台湾人は民主とはほど遠い息苦しい生活を強いられた。
八八年の〓経国総統の死後、副総統だった李氏が憲法改正による初の総統直接選挙で民選総統に就任し、本格的に民主化を進めた。
それだけに、経済大国にはなったものの強権政治が目立つ大陸中国にのみ込まれず、自由で平等な民主社会を守ろうとする台湾の人たちの選択を、国際社会は温かく見守るべきであろう。
中国は八〇年代に模索した政治改革を進めず一党独裁が続く。同じ中華民族の台湾は、権力者の統治より民に重きを置く「三民主義」を掲げた国父・孫文の理想を現実社会で実現したと評価できる。
中国が「一国二制度」で統治する香港で、行政長官選の民主化を求めて学生らが起こした「雨傘運動」の記憶は、今も鮮烈である。
中国は安定団結を最優先にし、政治改革に踏み込む様子はみせていない。だが、香港や台湾を含む中華社会で若者を中心にわき起こった民主化を求める動きに、いつまでも目を背けることは許されないだろう。
◆“あいまい戦略”の知恵
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「台湾独立」を党綱領に掲げる民進党の蔡氏が当選した最大の理由は、将来の中台関係で台湾民衆に安心感を与えたことであろう。中台双方が「一つの中国」で一致したとする「九二年合意」について、民進党は合意を認めていないが、蔡氏は選挙中に「独立色」を極力抑制し中台関係の「現状維持」策を強く打ち出した。
昨年十一月、中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統が会談し「九二年合意」の堅持を確認した。習主席が政権交代を見越してか「合意の核心的内容を認めれば交流したい」と、合意の文言にこだわらない柔軟姿勢を示していたことにも注目したい。
台湾では八割近い人たちが政治的な現状維持を求めており、主権にかかわる最大の難問に、蔡氏が「現状維持」で対応したのは“あいまい戦略”とも言える現実的な知恵であったといえる。
課題は今後の対応である。蔡氏は「挑発せず、予想外のことをせず、対等な交流の道を探る」と述べたが、中国は「いかなる形の台湾独立運動にも断固反対する」とけん制した。「台湾独立」の党綱領と選挙で訴えた「現状維持」策の折り合いをどうつけ、平和で安定的な関係を築けるか政治手腕が問われる。もしも「独立」に傾けば危険なことは言うまでもない。
◆「ホットライン」続けて
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選挙期間中に台北市内を歩き、台湾民衆は中国の統一攻勢や中国が台湾の政治に干渉することには警戒感を隠せないが、何よりも安定的な中台関係による経済発展を望んでいることを感じた。
中台間では自由貿易協定にあたる「経済協力枠組み協定」が結ばれ、「台商」という大陸の台湾商人は家族を含め百万人を超える。経済的な結びつきは極めて強い。
中国は台湾独立の動きに警戒感を示しているが、台湾の新指導者と誠実に向き合ってほしい。政権交代があっても、習・馬会談で合意した閣僚級ホットラインによる対話を続け、相互不信の芽を取り除く努力が欠かせない。
台湾海峡はかつて、初の総統選を威嚇する中国のミサイル演習で極度に緊張が高まった世界の発火点の一つである。日本を含む国際社会には、海峡の平和と安定こそ共通の利益ととらえ、中国と台湾の新たな対話を見守り、あと押しする姿勢が必要であろう。
※〓は、くさかんむりに將