議論すべき課題は山積している。主要国というのなら、未来の地球への責任を果たす強い決意を示してほしい。伊勢志摩サミットの二日間が始まる。
サミットは、例えば二〇〇八年の北海道洞爺湖がそうだったように、かつては三日間の日程で行われていた。一〇年のムスコカ(カナダ)からは二日間に短縮され、その分、実務色の濃い会議日程となっている。
◆課題はあまりにも多く
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今回も、初日は午後からワーキングディナーを含む四つのセッション、二日目はアジアとアフリカから招いた七カ国の首脳も加わる拡大会合とワーキングランチを含む三つのセッションが予定されている。いわば短期決戦型のサミットとなる。
その間に取り上げるべき課題は、あまりにも多い。
最大のテーマとされるのは世界経済。つまり、昨年来の中国の景気減速や原油価格の低下を背景に不透明感が増す中、いかに力強い成長への道筋を示すか。サミットの原点ともいえる課題である。
世界経済の分野では、「パナマ文書」がえぐり出したタックスヘイブン(租税回避地)と課税逃れの問題も避けては通れない。
政治・外交分野ではテロ対策と難民問題、中国の海洋進出を背景とする海洋安全保障、北朝鮮の核・ミサイルなど難題がずらり。
温暖化対策やエネルギー、さらに、議長国として日本が重視する保健衛生などの課題は二日目に取り上げられる。
その多岐にわたる議論の中から先進七カ国(G7)としてどんなメッセージが打ち出せるのか。
今回の舞台、伊勢志摩は一九四六年、戦後初の国立公園に指定された。「志摩のリアス海岸」「伊勢の神宮林」という二本柱の豊かな自然とともに、公園面積の96%が民有地という人と自然とのつながりの深さが特徴とされる。
◆循環と再生の舞台で
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海の宝石である真珠の養殖技術は、志摩のリアス海岸で確立された。金は掘り尽くせば終わりであるが、真珠は、自然の力を生かす努力を怠らなければ、いつまでも生み出すことができる。
伊勢神宮には常若(とこわか)という考え方があり、二十年に一度、内宮、外宮の正殿はもとより、六十棟に及ぶ神殿をすっかり新しくする。
その式年遷宮のために木を植えて、山を手入れする。解体で出る廃材は再利用される。
木を切り、建てて、土に返す、そこにまた新しい命が宿り、芽を吹き、育つ…。こうして伊勢神宮は千数百年にも及ぶ循環と再生の歴史を築いてきた。
伊勢志摩は、つまり、循環する自然の力を生かし、持続可能な風土を築いてきたのである。
オバマ米大統領の広島訪問が決まって内外の注目を集めるが、かといって、伊勢志摩という舞台の意義を忘れてはなるまい。
そもそも、なぜ、サミットを開くのだろう。それは結局、世界を持続させるためではないのか。
議題があふれんばかりとなった日程表は、G7各国も今の世界の先が見通せない、つまり、持続可能性にそれぞれ不安があることを象徴しているのかもしれない。
「持続可能な発展」という概念が初めて示されたのは、ノルウェーの女性首相ブルントラント氏が委員長を務めた国連「開発と環境に関する世界委員会」が一九八七年に発表した報告書。当時、大きな課題と考えられたのは人口爆発であり、環境汚染であった。
今は、広がる一方の貧富の格差であり、地球温暖化であろう。
例えば、先進国が主導してきた経済のグローバル化は幸せな人を増やしたのだろうか、幸せになれない人を増やしたのだろうか。
貧困は不満の温床である。貧困を解消するには、富が偏在してしまう今の仕組みを改めねばなるまい。そうすれば、手探りのテロ対策にも光が見えてくるだろうし、難民問題もなくなるはずだ。
昨年九月、国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。「極貧層を三〇年までに消滅させる」といった途上国支援の目標とともに、先進国に過剰な消費文化の転換を求めるなど、世界全体で地球を守るという姿勢を打ち出している。
◆よどむことない流れを
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今回は、その新目標が採択されて初めてのサミットである。
昨年のドイツ・エルマウでのサミットでは、首脳宣言に温暖化対策の強い目標が盛り込まれ、その流れが同年末、国連気候変動枠組み条約第二十一回締約国会議(COP21)でのパリ協定採択につながった。
伊勢志摩でも、できるはずである。持続可能な地球の未来を目指し、よどむことない流れをつくり出す強い決意を期待したい。
サミットは、例えば二〇〇八年の北海道洞爺湖がそうだったように、かつては三日間の日程で行われていた。一〇年のムスコカ(カナダ)からは二日間に短縮され、その分、実務色の濃い会議日程となっている。
◆課題はあまりにも多く
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今回も、初日は午後からワーキングディナーを含む四つのセッション、二日目はアジアとアフリカから招いた七カ国の首脳も加わる拡大会合とワーキングランチを含む三つのセッションが予定されている。いわば短期決戦型のサミットとなる。
その間に取り上げるべき課題は、あまりにも多い。
最大のテーマとされるのは世界経済。つまり、昨年来の中国の景気減速や原油価格の低下を背景に不透明感が増す中、いかに力強い成長への道筋を示すか。サミットの原点ともいえる課題である。
世界経済の分野では、「パナマ文書」がえぐり出したタックスヘイブン(租税回避地)と課税逃れの問題も避けては通れない。
政治・外交分野ではテロ対策と難民問題、中国の海洋進出を背景とする海洋安全保障、北朝鮮の核・ミサイルなど難題がずらり。
温暖化対策やエネルギー、さらに、議長国として日本が重視する保健衛生などの課題は二日目に取り上げられる。
その多岐にわたる議論の中から先進七カ国(G7)としてどんなメッセージが打ち出せるのか。
今回の舞台、伊勢志摩は一九四六年、戦後初の国立公園に指定された。「志摩のリアス海岸」「伊勢の神宮林」という二本柱の豊かな自然とともに、公園面積の96%が民有地という人と自然とのつながりの深さが特徴とされる。
◆循環と再生の舞台で
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海の宝石である真珠の養殖技術は、志摩のリアス海岸で確立された。金は掘り尽くせば終わりであるが、真珠は、自然の力を生かす努力を怠らなければ、いつまでも生み出すことができる。
伊勢神宮には常若(とこわか)という考え方があり、二十年に一度、内宮、外宮の正殿はもとより、六十棟に及ぶ神殿をすっかり新しくする。
その式年遷宮のために木を植えて、山を手入れする。解体で出る廃材は再利用される。
木を切り、建てて、土に返す、そこにまた新しい命が宿り、芽を吹き、育つ…。こうして伊勢神宮は千数百年にも及ぶ循環と再生の歴史を築いてきた。
伊勢志摩は、つまり、循環する自然の力を生かし、持続可能な風土を築いてきたのである。
オバマ米大統領の広島訪問が決まって内外の注目を集めるが、かといって、伊勢志摩という舞台の意義を忘れてはなるまい。
そもそも、なぜ、サミットを開くのだろう。それは結局、世界を持続させるためではないのか。
議題があふれんばかりとなった日程表は、G7各国も今の世界の先が見通せない、つまり、持続可能性にそれぞれ不安があることを象徴しているのかもしれない。
「持続可能な発展」という概念が初めて示されたのは、ノルウェーの女性首相ブルントラント氏が委員長を務めた国連「開発と環境に関する世界委員会」が一九八七年に発表した報告書。当時、大きな課題と考えられたのは人口爆発であり、環境汚染であった。
今は、広がる一方の貧富の格差であり、地球温暖化であろう。
例えば、先進国が主導してきた経済のグローバル化は幸せな人を増やしたのだろうか、幸せになれない人を増やしたのだろうか。
貧困は不満の温床である。貧困を解消するには、富が偏在してしまう今の仕組みを改めねばなるまい。そうすれば、手探りのテロ対策にも光が見えてくるだろうし、難民問題もなくなるはずだ。
昨年九月、国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。「極貧層を三〇年までに消滅させる」といった途上国支援の目標とともに、先進国に過剰な消費文化の転換を求めるなど、世界全体で地球を守るという姿勢を打ち出している。
◆よどむことない流れを
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今回は、その新目標が採択されて初めてのサミットである。
昨年のドイツ・エルマウでのサミットでは、首脳宣言に温暖化対策の強い目標が盛り込まれ、その流れが同年末、国連気候変動枠組み条約第二十一回締約国会議(COP21)でのパリ協定採択につながった。
伊勢志摩でも、できるはずである。持続可能な地球の未来を目指し、よどむことない流れをつくり出す強い決意を期待したい。