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[日経新聞] 着実に進めたいiPS細胞の治療応用 (2016年06月12日)

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あらかじめ作って凍結保存した他人のiPS細胞を難病の治療に使う初の試みを、理化学研究所や京都大学が年内にも始める。再生医療の普及へ向けた重要な一歩で、慎重かつ着実に進めてほしい。

理研などは2014年9月に、世界で初めてiPS細胞を用いた治療を実施した。本人のiPS細胞から作った網膜細胞を、目の難病の患者に移植した。細胞の作製や検査に約1年かかり、費用は1億円近かった。

拒絶反応が起きにくい特殊な免疫タイプの人から作る備蓄細胞を使えば、費用は5分の1以下ですむとされる。患者には朗報だ。

課題もある。iPS細胞は無限に増やせ様々な細胞に成長できる優れた能力をもつ一方、がんになる場合がある。リスクをどう減らすか専門家の意見が割れ、2例目以降の治療が遅れていた。

安全性の確認は時間とコストをかければいくらでも厳しくできる。ただ、がん化のメカニズムが解明しきれていないので、どれだけ調べても100%安全とは言い切れない。ゼロリスクを追求すれば治療は事実上不可能になる。

厚生労働省の研究班はこのほど安全性を評価する基準のたたき台をまとめた。「全員が一致する最終結論には至らなかった」と断り書きしているが、不完全でも研究者がよりどころにできる確認項目を示したのは評価できる。

治療例を積み重ねデータを集めて安全性をさらに高める方法を探りながら、より厳密な基準に仕上げていくべきだろう。iPS細胞から作る治療薬の試験に慎重だった製薬企業も、これを機に積極的に取り組んでほしい。

14年の治療の際、iPS細胞を作った京大の山中伸弥教授は不安で眠れない夜が続いたという。執刀医は「失敗したら社会的に葬り去られる」と恐れた。

失敗が研究者への非難や治療計画の全面停止を招く事態は避けたい。医療の進歩を妨げ国際競争にも取り残されかねないからだ。厚労省研究班が示した項目に沿って安全性を確認した細胞で治療し、なお問題が起きた場合、社会が結果を受け入れる寛容さもいる。

医師や研究者は事前に、iPS細胞の利点だけでなくリスクや安全対策についても患者や家族に十分に説明し、納得してもらうことが大切だ。うまくいかない場合でもきちんと話す。信頼と透明性の確保は治療の大前提となる。

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