旧日本軍による「南京事件」の関連資料が世界記憶遺産に登録され、日本政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)への批判を強めている。選定に不透明さはあるが、節度ある対応が必要だ。
登録されたのは、一九三七年の南京大虐殺の生存者証言、写真フィルム、南京軍事法廷の判決など。日本政府は資料の完全さと真正さに問題があるとして、中国政府に申請取り下げを求めてきた。
大きな争点は虐殺による犠牲者数。中国の申請資料には三十万人の数字があるとみられるが、日本側は諸説あり正確な数を決めるのは難しいと反発。遺産登録により中国の主張が公式なものとみなされ、外交の手段として政治利用されないかと警戒する。
菅義偉官房長官はユネスコの審査について「中立公正であるべき国際機関として問題だ」と批判した。ユネスコ加盟国の分担金では、日本は二〇一四年で約三十七億円、比率11%で第二位だが、政府は分担金の停止、削減も検討すると強い姿勢を示した。
しかし、分担金の停止とは、行きすぎではないか。何よりも、民間人まで犠牲にした南京事件の悲惨さを軽んじるのかと、国際社会から批判を受けるだろう。
ユネスコは平和や人権、防災、途上国での識字教育など多くの事業をしている。日本が資金支出を止めれば、事業全体に影響し、不信を招いて、むしろ逆風を呼ぶのではないか。次の世界遺産登録を目指す地方自治体の活動にもマイナスになりかねない。
確かに、記憶遺産の選定過程には問題が多い。根拠となる国際条約はなく、個人や団体でも申請できるうえ、ユネスコは申請資料を公表せず関係国の意見聴取もしないからだ。国際条約に基づいて政府が申請し、公開の事前審査も行われる世界遺産(文化、自然、無形文化)とは大きく異なる。
記憶遺産では最近、国家間で見解が異なる近・現代史の資料が対象になるケースが出てきた。密室審議のままでは、今回のような対立は避けられない。
申請をすべて公表して、関係国の意見を求め、申請内容が真実性に反していないか公開で議論する必要がある−。ユネスコの松浦晃一郎前事務局長は共同通信の取材にこう提言したが、現場を知るだけに説得力がある。
係争があることが、もし広く公開で議論されるのなら、争いの溝を埋めるのに役立つ可能性がある。耳を傾けたい。
登録されたのは、一九三七年の南京大虐殺の生存者証言、写真フィルム、南京軍事法廷の判決など。日本政府は資料の完全さと真正さに問題があるとして、中国政府に申請取り下げを求めてきた。
大きな争点は虐殺による犠牲者数。中国の申請資料には三十万人の数字があるとみられるが、日本側は諸説あり正確な数を決めるのは難しいと反発。遺産登録により中国の主張が公式なものとみなされ、外交の手段として政治利用されないかと警戒する。
菅義偉官房長官はユネスコの審査について「中立公正であるべき国際機関として問題だ」と批判した。ユネスコ加盟国の分担金では、日本は二〇一四年で約三十七億円、比率11%で第二位だが、政府は分担金の停止、削減も検討すると強い姿勢を示した。
しかし、分担金の停止とは、行きすぎではないか。何よりも、民間人まで犠牲にした南京事件の悲惨さを軽んじるのかと、国際社会から批判を受けるだろう。
ユネスコは平和や人権、防災、途上国での識字教育など多くの事業をしている。日本が資金支出を止めれば、事業全体に影響し、不信を招いて、むしろ逆風を呼ぶのではないか。次の世界遺産登録を目指す地方自治体の活動にもマイナスになりかねない。
確かに、記憶遺産の選定過程には問題が多い。根拠となる国際条約はなく、個人や団体でも申請できるうえ、ユネスコは申請資料を公表せず関係国の意見聴取もしないからだ。国際条約に基づいて政府が申請し、公開の事前審査も行われる世界遺産(文化、自然、無形文化)とは大きく異なる。
記憶遺産では最近、国家間で見解が異なる近・現代史の資料が対象になるケースが出てきた。密室審議のままでは、今回のような対立は避けられない。
申請をすべて公表して、関係国の意見を求め、申請内容が真実性に反していないか公開で議論する必要がある−。ユネスコの松浦晃一郎前事務局長は共同通信の取材にこう提言したが、現場を知るだけに説得力がある。
係争があることが、もし広く公開で議論されるのなら、争いの溝を埋めるのに役立つ可能性がある。耳を傾けたい。