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[東京新聞] 相模原事件 共有したい生きた証し (2016年08月27日)

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相模原市の障害者殺傷事件から一カ月余。大切な人生を奪われたのは誰なのか。いまだに社会は知ることができない。事件を深く記憶に刻み、教訓を学び続けるためにも、生きた証しを共有したい。

♪僕らはちゃんと生きてきたよ

ちゃんと夢だって見ていたよ

風や空や海だって感じることが できたのに

僕らをどうして不幸せと、勝手 に決めるのか?

「19の軌跡」という歌詞の一節である。脊髄性筋萎縮症を患うさいたま市の見形(みかた)信子さん(47)らが、犠牲になった十九人を悼み、創作したものだ。

犠牲者のいのちの痕跡を表現したかったというだけではない。むしろ、これまでとこれからの自らの生の証しとして書いたという。

それぞれが名前を持ち、守られるべき尊厳のある人間なのに、なぜ「十九」という無機質な数字でしか語られない世の中なのか。その理不尽への怒りや悲しみ、「自分は消されたくない」という心の叫び。切実な思いが伝わる。

障害の有無を超えて、同じ心境にある人も多いのではないか。

犯罪被害者を実名、匿名のどちらで発表するかは、犯罪被害者等基本法に基づき、警察の判断に委ねられている。いつもは重大事件の被害者を実名で発表するのに、今度の事件では伏せたままだ。

身元にまつわる情報は、社会の光と影を映し出す手掛かりとなりうる。そうした公益性や公共性よりも、犠牲者に障害があったことや遺族のプライバシー保護、また遺族の要望を警察は重視した。

その価値判断そのものに、障害者への偏見や差別意識が潜んでいないか。犯罪史に残る事件の風化に手を貸すようなものだ。そんな批判が絶えないのもうなずける。

障害のある子を持って恥ずかしいとか、兄弟姉妹の結婚や就職に差し支えると思い、泣く泣く施設に託す家族もいる。優生思想的な風潮がそうさせるとすれば、国を挙げて根絶せねばならない。

見形さんも「隠されて育った」と言う。施設で生涯を終えることに耐えられず、家族の元を飛び出した。いまでは障害者の自立を手助けする活動に携わる。

周りに支えられて、地域で暮らす障害者は増えている。以前よりも、多様な個性を守る仕組み、いのちを慈しむ意識が徐々に広がっている事実もまた知ってほしい。

遺族や被害者が声を上げられる社会づくりへ向けて、メディアとしても使命と責任を銘記したい。

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