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[朝日新聞] 再審制度 証拠の開示を広げよ (2015年10月26日)

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日本の裁判は三審制が原則である。だがその後も、過ちがあった可能性が強まれば、改めて審理の道が開かれる。刑事訴訟法が定める再審制度である。

今月、再審をめぐる二つの事件で明暗が分かれた。

死刑確定から43年。「名張毒ブドウ酒事件」の奥西勝死刑囚が89歳で病死した。再審を求め続けたが、ついにかなわなかった。一方、大阪市東住吉区で女児が死亡した住宅火災では、高裁が再審開始を支持した。

3審を尽くして判決を確定させた重みは尊重されるべきだ。だが、人間の判断に絶対はない。誤審で無実の人を獄につなぐことがあってはならない。

再審開始には新証拠が必要とされる。だが現実には、遺留物や供述など膨大な証拠を検察がにぎっている。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則を、再審での証拠開示のあり方にも適用すべきだ。

名張事件では、現場の写真ネガなど、検察が裁判所に出さぬまま持つ証拠を開示するよう、弁護団が求めてきた。正確には「持っているはず」のものだ。どんな証拠があるかさえ分からず、リストも求めた。だが裁判所はどちらも認めなかった。

無罪と死刑の間で司法の判断が揺れた事件だ。捜査段階の「自白」を裏付けるとされた物証は、わずかしかない。真実の追究より、司法のメンツが優先されたのではないかという疑念をぬぐうためにも、裁判所は証拠開示を促すべきだった。

ここ数年、再審無罪となった事件で、被告に有利な証拠を検察が隠していたケースが続いた。1967年に茨城県でおきた強盗殺人の布川事件では、「現場近くで見たのは別人」という目撃証言が有罪確定から20年以上たって開示された。

97年の東電社員殺害では、遺体の付着物を検察が保管していたことがわかった。その鑑定で別人の犯行の疑いが強まり、ネパール人男性が釈放された。

これらの教訓が十分に生かされているとはいえない。

通常審をめぐっては、05年の公判前整理手続きの導入で、検察側の証拠開示は広がった。さらに先の国会には、検察が持つ証拠リストを被告側に示すとした法案が出された。

この理念を再審にも広げるべきだ。法案の土台を話し合った法制審部会では、東電事件の再審に関わった裁判官が「再審の証拠開示は裁判官の運用に任されていて、統一したルールがない」と課題を指摘している。

証拠開示請求に、裁判所や検察はきちんと応じるべきだ。

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