障害者施設での虐待を通報したら、施設側から損害賠償を求められる事態が相次いでいる。良識に対する“報復措置”とすれば許されない。謙虚に省みる姿勢を欠く施設は社会的信用を失うだけだ。
誰であれ虐待されたと疑われる障害者を見つけたら、自治体に通報せねばならない。障害者虐待防止法で定められた義務である。高齢者や子どもの虐待を防ぐ法律とほぼ同じ仕組みになっている。
自ら声を上げられない非力な存在を、社会を挙げて守るねらいがある。周りの人々の良心や善意、正義感から発信されるSOSは大きな頼みの綱だ。
それだけに、埼玉県と鹿児島県の障害者就労支援施設で持ち上がった問題は深刻である。賠償請求をおそれ、通報をためらう風潮が広がらないか強く懸念される。
さいたま市の施設では、男性職員が知的障害のある利用者らの裸の写真を撮ったなどとして当時職員だった女性が市に知らせた。市は虐待を認め、改善を勧告した。
ところが、施設側は、女性の説明には虚偽が多く、仕事の予定が取り消されたとして六百七十万円余りの賠償を求めたという。法廷で争えば重い負担を強いられる。
鹿児島市の施設では、当時職員だった男性が「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と利用者から聞き、市に通報した。市は虐待の認定には至らなかった。
これに対し、施設側は、事実無根の中傷で名誉を傷つけられたとして、百十万円の賠償を求めて男性を提訴したという。
法律に従って通報しても損害の穴埋めを要求されるのでは、障害者を守ろうとの機運はなえてしまう。法の理念にもとる行為だ。
厚生労働省の二〇一三年度の調査結果では、施設や家庭、職場での虐待疑いの通報は七千百件余りに上ったが、事実と認められたのは三割強にとどまった。
虐待には暴力や体罰だけではなく、脅迫や嫌がらせ、介助の放棄といった痕跡の残りにくい形もある。事情をのみ込めないとか、気持ちをうまく表現できないような障害者も多い。自治体の調査にも限界があるのが実情だ。
しかし、だからといって、障害者の居場所には監視カメラの設置をという空気が強まれば、今度はプライバシーが危ぶまれる。
仮に虐待が裏づけられなかったとしても、通報された事業者は誠実に受け止めるのが筋である。これを機に、意趣返しに対して制裁を科す仕組みを検討するべきだ。
誰であれ虐待されたと疑われる障害者を見つけたら、自治体に通報せねばならない。障害者虐待防止法で定められた義務である。高齢者や子どもの虐待を防ぐ法律とほぼ同じ仕組みになっている。
自ら声を上げられない非力な存在を、社会を挙げて守るねらいがある。周りの人々の良心や善意、正義感から発信されるSOSは大きな頼みの綱だ。
それだけに、埼玉県と鹿児島県の障害者就労支援施設で持ち上がった問題は深刻である。賠償請求をおそれ、通報をためらう風潮が広がらないか強く懸念される。
さいたま市の施設では、男性職員が知的障害のある利用者らの裸の写真を撮ったなどとして当時職員だった女性が市に知らせた。市は虐待を認め、改善を勧告した。
ところが、施設側は、女性の説明には虚偽が多く、仕事の予定が取り消されたとして六百七十万円余りの賠償を求めたという。法廷で争えば重い負担を強いられる。
鹿児島市の施設では、当時職員だった男性が「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と利用者から聞き、市に通報した。市は虐待の認定には至らなかった。
これに対し、施設側は、事実無根の中傷で名誉を傷つけられたとして、百十万円の賠償を求めて男性を提訴したという。
法律に従って通報しても損害の穴埋めを要求されるのでは、障害者を守ろうとの機運はなえてしまう。法の理念にもとる行為だ。
厚生労働省の二〇一三年度の調査結果では、施設や家庭、職場での虐待疑いの通報は七千百件余りに上ったが、事実と認められたのは三割強にとどまった。
虐待には暴力や体罰だけではなく、脅迫や嫌がらせ、介助の放棄といった痕跡の残りにくい形もある。事情をのみ込めないとか、気持ちをうまく表現できないような障害者も多い。自治体の調査にも限界があるのが実情だ。
しかし、だからといって、障害者の居場所には監視カメラの設置をという空気が強まれば、今度はプライバシーが危ぶまれる。
仮に虐待が裏づけられなかったとしても、通報された事業者は誠実に受け止めるのが筋である。これを機に、意趣返しに対して制裁を科す仕組みを検討するべきだ。